読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

よろずを引くもの お蔦さんの神楽坂日記 西條奈加著 東京創元社 2022年

 シリーズ4冊目。神楽坂で履物屋を営む元芸妓のお蔦さんと、その孫で高校生の望の周りで起こる出来事を描いた連作短編集。

 よろずを引くもの
 神楽坂商店街で、万引きの被害が多発している。対応策もままならない中、犯人を引き留めようとして、和菓子屋「伊万里」の老主人が怪我をしてしまった。望は親友の洋平と、似顔絵を持って商店街を回る。果たして、洋平の実家木下薬局に、それらしい人物が現れた。

 ガッタメラータの腕
 美術部の部長 穴水先輩が半分お遊びで作ったガッタメラータ彫像の腕が無くなってしまった。持っていたエプロンごと、誰かに盗られたらしい。その話題が出た時の反応のおかしさから望は犯人を特定、中等部の女子 尾花さんに目星をつけた。尾花さんは、父親そっくりの彫像を見たくなかったのだという。離婚後、エプロン姿で孤軍奮闘する父親の姿を。

 いもくり銀杏
 五歳と三歳の兄妹が二人きり、お蔦さんの履物屋に連れて来られた。最近引っ越してきたばかりのシングルマザーの子供らしい。置き去りにされてしまった子供は、望たちに頑なな態度を取る。

 山椒母さん
 置屋の元女将さんがお蔦さんを訪ねて来た。お蔦さんも苦手とするほどのぴりっとした気性のその人は、人を探しているという。踊りの名手だったという元芸妓の初乃さん、現在行方不明で唯一の手掛かりは、お蔦さんの元同僚 勝乃姐さん宛の年賀状一枚のみ。現在も踊りを続けているに違いない、と望たちはネットも使った検索に走る。

 孤高の猫
 野良猫のハイドンがいなくなった。最後に目撃された時には、後ろ足を引きずっていたらしい。ご近所の有志で捜索隊まで結成、猫探しに奔走した結果、動物病院で手掛かりを掴んだ。だが、拾い主の男の子からハイドンの方が離れようとしない。孤高のハイドンはどうやら、その男の子に自分が必要だと思っているようだ。その男の子の境遇とは。

 金の兎
 昔馴染みの赤羽吉次を弔問したお蔦さん。対応したのはまだ高校生の美沙希で、吉次の二番目の妻の娘。実は赤羽家は、最初の妻の息子と形見分けで揉めている。息子が欲したのは飾り棚にあった金の兎の置物のみ、だがその兎が見つからない。幼い頃その兎を気に入っていた覚えがある美沙希は、自分がどこかに失くしたのではないかと怯える日々、だがお蔦さんは、漸く兎が見つかったという。

 幸せの形
 楓が父 奉介の誕生日に、ケーキを焼きたいと望に相談してきた。一緒に台所に立てると嬉しさが隠せない望、だが楓の料理の腕はかなりの低レベルだった。母親が全く料理をしないこと、それがよその人に与える印象にコンプレックスを感じている楓。うちの家庭はそれで円満なのに。…

 相変わらず美味しそうなもの満載のシリーズ。
 多少「苦しくないかい、この展開は」と思う箇所もありつつ。
 さらりと軽く書かれているエピソードは、今回は裏に重いものが流れている話も多かったような。『いもくり銀杏』なんて、それで片付けていいの、息抜きが必要とかってレベルじゃないよと思ったし、『孤高の猫』の男の子が背負わされたものは、解決法がないだろう、ってものだったし。
 離婚家庭とかよく出てくるのはご時勢なのか、でもお蔦さんの経歴なら、シングルマザーになってる仲間とかは世間より多かったんじゃないのかしら。それを踏まえた解決策ってのはないんだろうな、昔は辛抱しろの一点張りだった気がするし、パターンもそれぞれだったろうし。
 挿画が変わりましたよね、顔立ちがはっきり描かれてる絵で、これまでのに慣れてる身としてはちょっと違和感がありました。まぁこれは好みの問題ですね。