読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

たんぽぽ球場の決戦 越谷オサム著 幻冬舎 2022年

「ブンブン振って、ドタドタ走って、ポロポロ落として、
でも最後まで、本気で勝ちに行きましょう!」

 かつて「超高校級」ともてはやされたピッチャーだった大瀧鉄舟は肩を壊して野球の道をあきらめ、人生そのものが停滞したまま20代半ばを迎えてしまった。そのまま生きていくのはツラすぎるけど、現実と向き合って人生をやり直す勇気もなかなか出ない。そんな鉄舟が、ひょんなことから草野球チームを創設することに。慌てて元チームメイトで三塁手だった阪野航太にコーチを依頼、だが募集に応じて来たのは中年サラリーマンの清瀬正巳と、大学生の遠藤奏音のみ。中学まで野球経験者だった清瀬はともかく、奏音は全くの初心者で、硬球に当たったトラウマから、ボールから逃げる癖がついている始末。バッティングセンターで出会った老人 三浦武夫と中学生の孫 カズヨシが加わり、新たな応募者細井隼人や、見学者から乗り込んで来た薬師院しのぶも入ったが、奏音と細井のあまりのできなさに苛立つ場面も。
 そんな元ピッチャーの傲慢さを、航太朗は指摘する。鉄舟の俺様ぶり、ナーバスさは高校の時から実は変わらず、当時から色々やらかしていたらしい。初の対外試合の相手、柳町ヤナギーズのピッチャーが、鉄舟にむき出しの敵意を向けて来るほどに。
 過去の自分の言動を、図書館の古い新聞記事まで見て確認する鉄舟。初心者には改めてプレイを指導、鉄舟自身も慣れない捕手というポジションに就いて、初めてチーム全体を見るという事を経験する。高校当時、自分とバッテリーを組んでいた先輩捕手の偉大さにも、自分の至らなさにも気付く。
 事務作業を疎かにしていたせいで陥ったチーム存続の危機も乗り越え、やがて念願の初試合へ。全員挫折経験ありのへっぽこナインが、河川敷のグラウンドで奇跡を起こす!(……かも)  (出版社紹介文に付け足しました)

 分かり易く爽快な一冊。思い出したのは同じ作者の『階段途中のビッグノイズ』、あれと同じく先が読めてしまう。ああこれが後の伏線になるんだろうなとか、ここらへんでポカがくるよね、とか。予定調和の何が悪い、だって面白いんだから、と胸を張るのも悪くはない。野球が上手くなっていくディティールは細かく丁寧でした。
 ただ、今回のお話がそれほど素直に私に響かないのは、主人公が高校生ではないからなんだろうなぁ。何しろ主人公が年齢の割に伸びしろがあり過ぎる。以前、岡田斗司夫さんだったかが『鋼の錬金術師』を評して、「馬鹿が一人も出て来ない」「馬鹿を成長させるのは簡単だけど、みんな賢いのに成長していくのが凄い」と仰ってて、目からウロコ!な思いをしたんですが、その点で行くと、安易に流れた展開だった気はしなくもない。真に書き込むべきは航太朗だったのかも。
 何歳からでもやり直せる、というメッセージも、もっと私に響く作品で読んでしまってるからなぁ。どうやらひねた私には真っ直ぐすぎる話だったようです。面白かったんですけどね。