読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

怪談小説という名の小説怪談 澤村伊智著 新潮社 2022年

 短編集。ネタばれあります、すみません;

 高速怪談
 東京から大阪まで、自動車に乗りあって帰省することになった。ほぼ初対面の四人で夜中の高速道路を走り、うちの一人が「女性の顔が浮かんだ」とイラストをしたためたことから、怪談に花が咲くことに。それはどんどんエスカレートして行き…

 笛を吹く家
 妻と息子と近所を散歩していて、幽霊屋敷のような家を見つけた。着難しい息子も何だか気になる様子、噂ではその家では行方不明になる子供が相次いでいるらしい。やがて妻は、息子をある所に預けるようにになる。 

 苦々陀の仮面
 自主制作のスラッシャー・ホラー映画『苦々陀の仮面』が海外の国際映画賞を受賞した。その精密な暴力描写が話題になって国内でも大ヒット、だが主演した男性が自死し、その母親が「映画で息子が受けていた暴力は実際に行われていたものだ」と告発したことから、周辺が騒がしくなってくる。監督は記事を否定するが、スタッフたちが次々と殺害されて行く。

 こうとげい
 新婚旅行で、山奥の高級リゾートホテルに泊まった。周辺の店を冷やかした帰り、一軒の古家に行きつく。古民家カフェを開く予定だという兄妹に会った、という話をした途端、ホテルの従業員の態度が変わった。最上級の部屋と食事が用意され、だが二人きりで閉じ込められる扱い。だが、地元出身だというスタッフの一人が彼らを部屋から出してくれる。それどころかホテルからすぐ逃げるように、と。

 うらみせんせい
 校舎に閉じ込められた。はじめは猪木ちゃんと二人だったが、親友のメイ、同じグループのさきぷる、クラスメイトの近藤や雨森と会い、その度に行動範囲は広がるものの、一人ひとり惨殺されていく。学校の怪談”浦見先生”に巻き込まれたのだろうか。

 涸れ井戸の声
 先輩の小説家が引退した。未発表の原稿だ、と渡されたUSBメモリに入ってたのは『涸れ井戸の声』という小説にまつわる実録。書いた覚えがないのに来たファンレターを発端として、小説家はあちこちでその噂を聞くようになる。自分の調子が狂ってスランプに陥るほど面白い、でも思い出すのも怖い話。YouTubeで朗読を配信していたタレントが怖さに涙ぐんで読めなくなるほどの。ある日唐突に、小説家は目の前の雑誌にその話が載っているのに気付いた。それも自分が書いた小説として。読みたいという誘惑に、小説家は抗えなかった。

 怪談怪談
 かつて一世を風靡した霊能者 不二胡摩子。表舞台から姿を消した彼女を取材したい、と連絡を取った所、彼女の付き人だという男からある資料を渡された。N岬で行われたこども会の夏合宿、そこでは毎年肝試しが開かれていたらしい。子供の作文や絵、世話役の大人たちの記録。何の関係があるのか訝りながら、不二胡摩子の元へ案内される。…

 最初の話『高速怪談』は読んだことありましたね、アンソロジー集に入ってましたっけ。もう一度読み返すと、語り手の怯えようが不自然な気が…。伏線でもなさそうだし。最初からこんなに怯えるのに理由があるのか、ただ単に怖い話が嫌いというだけだったのかな。
 『笛を吹く家』は冒頭の自転車での散歩の情景が浮かびにくく、これは個人の妄想とかのオチかなと思いきや、現代社会の問題絡みの結末でした。やられたぜ、畜生(苦笑;)。
 復讐譚も何篇か。いじめをするような連中には、こういう作品読ませた方が撲滅に繋がるんではなかろうか。それともそういうことをしているという自覚自体がないかもなぁ。
 実際に一時期メディアを席捲した人たちのその後が書かれた箇所には、「そういうことがあったんだ、へぇ~」と思いました。素直に受け取っていいのかな(苦笑;)。
 スプラッタから民俗学や民間伝承、イタコまでの幅広さ、作者は本当にホラーが好きなんだろうなぁ。それは『苦々陀の仮面』の一節にも見受けられました。そうか、ホラーって決定的な真相解析というかがないんだな、訳の分からなさや時に理不尽さが怖さに繋がるんだな。
 結構なハイペースで発刊している印象があります。無理してないといいんだけど。