読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

沈みかけの船より、愛をこめて 乙一/ 中田永一/ 山白朝子著 安達寛高 解説 朝日新聞出版 2022年

 短編集。
 ネタばれになってる気がします、すみません;

 五分間の永遠 乙一
 ギャンブル好きの親父のために金に汚くなった「おれ」は、同級生の村田ツトムに、5分間だけ友達の振りをしてくれと頼まれた。報酬は500円。おれは彼の母親の前で数度、友達を演じてみせる。

 無人島と一冊の本 中田永一
 19世紀、船乗りのジェームズ・バーンスタインは遭難して、一冊の百科事典と共に無人島に流れ着いた。島には好奇心旺盛な猿がいて、ジェームズから文字や文法を教わり、百科事典からも様々な知識を得ていく。道具を作り、法律を整え、やがてジェームズの為に船を造り始めた。いよいよ出港の日、猿は敵対する猿から襲撃を受ける。

 パン、買ってこい 中田永一
 秋永はクラスメイトの入間から、パシリとして扱われていた。昼休みに購買部までひとっ走り、パンを買ってくる日々、やがて秋永は入間の気に入るように、工夫を凝らし始める。

 電話が逃げていく 乙一
 スマホが手から滑り落ちて、うまく掴めない。今すぐ電話しなきゃいけないのに、そこに義父が倒れているのに。

 東京 乙一
 東京タワーの展望台で、立ち眩みを起こした。大学進学のため地方を離れていた「私」は何故か妊娠していた。父親に心当たりはない、そもそもそういう行為をした覚えがない。誰にも頼れない状況で、私は子供を産み、育て始める。子供――「晴都」は不思議な能力を持っており、皆から好かれる一方、やがて周囲の負の感情をぶつけられるような事態も増えて来た。

 蟹喰丸 中田永一
 癌に侵され、余命宣告を受けた「俺」。酒を飲もうと買いに出た折、異界に迷い込んでしまう。そこで出会った鬼 蟹喰丸は、俺が持っていた酒を気に入り、今の体の状態を維持する代わりに酒を持ってくるよう命じる。蟹喰丸は皆に酒を振舞いながらも、自分は嫌われている、と嘆いていた。

 背景の人々 山白朝子
 エキストラのバイトで、山中を訪れた時の話。ドラマの撮影中、子供が映り込んでいたり、変な音が録音されていたりしたらしい。主演女優の女の子に嫌がらせをしたと濡れ衣を着せられて、「私」は一足先に山を下りた。

 カー・オブ・ザ・デッド 乙一
 山道で、車が立ち往生して困っている様子の男女と出会った。一旦自分の車に乗せてあげたものの、二人が中学校の同級生だと気づく。当時 憧れの彼女と、自分を虐めていた男。揉めている間に、通りがかった男を轢いてしまった。彼は、旧日本軍の生物兵器に罹患していたらしい。

 地球に磔にされた男 中田永一
 2012年1月のある日、「俺」柳廉太郎は父の友人 実相寺時夫の遺産を受け取りに、実相寺邸を訪れた。29歳で無職の俺は、遺品を売り飛ばそうと手近な時計に手を出し、それが時間跳躍機構だったことを知る。多次元世界を行き来する羽目になった俺、そこには様々な「俺」がいた。「俺」より凋落している者もいれば、幸せな家庭を手に入れている「俺」もいる。ただ、どの世界にも「俺」がいて、俺は留まることができない。

 沈みかけの船より、愛をこめて 乙一
 両親が離婚しようとしている。私と弟は、どちらについていくか決めなくてはならない。経済的には父が有利、だが父はどうやら浮気しているらしい。やがて、母には借金があったことが分かって来た。

 二つの顔と表面 Two face and a surface 乙一
 「私」は山田ユイにできた人面瘡だ。彼女に「アイ」と名付けられた。ユイの両親はとある新興宗教の信者で、そのせいもあって彼女は学校で孤独な存在でいる。ある日、同じクラスの中心人物 橋村春菜のかばんの中に、黒猫の死体が入れられるという事件が起こった。たまたま朝一番に登校していたこともあって、ユイが疑われてしまう。アイはユイを焚きつけて、犯人を捜すよう行動を促す。…

 何かこうなると、ペンネームって何さ、という気がしなくもない一冊。
 面白かったです。うおぅそうだった、乙さん(達)こういうダークな作風だったんだ、と改めて思い出しました。前作がちょっとほっこりした内容が多かったんで、丸くなったと思ってたよ(←おい;)。
 いや、今回も心温まる作品がない訳ではないんですが、それにしたってただのハッピーエンドではない、切なさや哀愁の残るラスト、根底に薄く漂うユーモア。どの作品も斜めからの視点が凄いよなぁ、『カー・オブ・ザ・デッド』や『二つの顔~』のラストは怖かったし。
 『二つの顔~』は、安倍首相襲撃事件より前に書かれてる筈ですよね、二世問題に触れられてて、妙なタイムリーさに驚きました。
 それにしても、この三人(?)の区別って何なんだろうなぁ。