短編集。…アンソロジー、なのかなぁ。
愛すべき猿の日記 乙一
自堕落な一人暮らしの生活を送っていた大学生の「僕」に、母親がインク瓶を送って来た。七年前行方不明になった父親の形見。一旦は捨てたものの、気になって仕方なくなり、結局「僕」はそれを使って日記を書くことにする。ペン先、ペン軸、日記帳に数冊の本、書棚…。部屋には日々物が増え、徐々に、だが劇的に、「僕」の生活は変わって行く。
「僕」の家は風の通り道にあるらしく、色々なものが「僕」の部屋のベランダに引っかかる。落ち葉や写真、古い雑誌に洗濯物、しらない文字で綴られたノートに、子犬や、二か月後の未来の日付の新聞まで。
そこには「僕」のクラスメイトが殺人をして、警察に出頭後自殺したとの記事があった。果たして、九月末、「僕」は夜中、血まみれのバットを持ったクラスメイト若槻ナオトと出会う。虐めを受けていた若槻は、呼び出された相手・金城アキラをバットで殴った上に包丁で刺した、と言う。普段見て見ぬふりをしていたことに罪悪感があったことも手伝って、「僕」は若槻を匿い、共に逃避行することに。
そこには「僕」のクラスメイトが殺人をして、警察に出頭後自殺したとの記事があった。果たして、九月末、「僕」は夜中、血まみれのバットを持ったクラスメイト若槻ナオトと出会う。虐めを受けていた若槻は、呼び出された相手・金城アキラをバットで殴った上に包丁で刺した、と言う。普段見て見ぬふりをしていたことに罪悪感があったことも手伝って、「僕」は若槻を匿い、共に逃避行することに。
宗像くんと万年筆事件 中田永一
小学校で、「私」山本真琴は、クラスメイトの万年筆を盗んだ、と濡れ衣を着せられた。いつの間にかランドセルに入っていた万年筆、盗んでいないという真琴の主張は聞き入れられず、担任教師も決めつけたままろくに調査もしない。登校拒否にまで陥る中、クラスの嫌われ者・宗像くんが、「疑いを晴らす」と聞き込みを初めてくれた。
さえない人生を送っていた「私」の楽しみは、お気に入りのアニメ、コミック、ゲームやライトノベルの世界に没入すること。長じて「私」は、高校の部誌に二次創作小説を書くようになる。ある日、他部生徒に自己投影したオリジナルキャラクター――メアリー・スーの存在を指摘された「私」は、彼女のを消し去るための努力を始める。
トランシーバー 山白朝子
地震の後の津波で、妻と幼い息子を亡くした。流された自宅跡から、息子お気に入りのおもちゃのトランシーバーが出てきた。以来、そのトランシーバーから息子の幼い声が聞こえてくる。酩酊するほど酒を飲んだ後に。
ある印刷物の行方 山白朝子
とある研究所で、廃棄物の焼却処理をする、という仕事に就いた「私」。3Dプリンターの研究をしているらしいが、実験が具体的にどんなものなのかは知らされない。ある日、厳重に密閉された廃棄用の箱の中から、「私」は呼吸音のようなものを聞いてしまう。
先日亡くなった資産家ジェームズ・バーンスタインの醜聞を聞きつけた雑誌記者の「俺」。何でも奥さんが後追い自殺したのは、遺品の整理をしていてとあるものを見つけてしまったからだとか。「人体楽器」と呼ばれるものを探って、「俺」はやはりジェームズ・バーンスタインの遺品にあった招待状の開催地へ向かう。…
「あ、乙さん新刊出たんだ」ってんで予約を入れた一冊。その後でアンソロジーだということを知り、あれ、でもほかの作家さん誰も知らない人だな、ってんでちょっと調べました。
乙さんの別ペンネームなんですね。いや、別名義の作品がある、ってのは聞いたことあったんですが、具体的な名前まで知らなかったので。
面白かったです。やっぱり乙さん、短編上手いわ。
『愛すべき猿の日記』の幸福な読後感、『山羊座の友人』のどんでん返し。表題作の『メアリー・スーを殺して』もお見事でしたね、二次創作やオタク文化を否定するのではなく、リア充であってもそこで終わりではない、さらに上を目指す、目指していけるという肯定感。
自分でちょっとしまったな、と思ったのは、全て同一人物の作品である、ということを知ってしまっていたこと。これ、予備知識なしの状態だったら、どんな風に読んでいたんだろう。それぞれの個性を見出していたんだろうか。
ちょっと早まったな、と後悔しました。
乙さんの別ペンネームなんですね。いや、別名義の作品がある、ってのは聞いたことあったんですが、具体的な名前まで知らなかったので。
面白かったです。やっぱり乙さん、短編上手いわ。
『愛すべき猿の日記』の幸福な読後感、『山羊座の友人』のどんでん返し。表題作の『メアリー・スーを殺して』もお見事でしたね、二次創作やオタク文化を否定するのではなく、リア充であってもそこで終わりではない、さらに上を目指す、目指していけるという肯定感。
自分でちょっとしまったな、と思ったのは、全て同一人物の作品である、ということを知ってしまっていたこと。これ、予備知識なしの状態だったら、どんな風に読んでいたんだろう。それぞれの個性を見出していたんだろうか。
ちょっと早まったな、と後悔しました。