読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

人でなしの櫻 遠田潤子著 講談社 2022年

 しがない日本画家の竹井清秀は、妻子を同時に喪ってから生きた人間を描けず、「死体画家」と揶揄されていた。ある晩、急な電話に駆けつけると、長らく絶縁したままの天才料理人の父、康則の遺体があり、全裸で震える少女、蓮子がいた。八歳の少女を、十一年にわたり父が密かに囲っていたのだ。激しい嫌悪を覚える一方で、清秀はどうしようもなく蓮子に惹かれていく。
 誘拐されたショックからか、蓮子の精神年齢は八歳で止まっていた。康則をひたすら慕い、康則と似ている清秀にかろうじて懐く。本当の親や兄には怯えるばかりで、食べるものも親の手料理を拒否する。助けを求める蓮子を、清秀は病院から連れ出してしまう。亡き妻 夏梅ゆかりの地 山口県の古屋「夏蜜柑の家」で、二人の生活が始まった。蓮子からインスピレーションを受け、清秀は文字通り命を賭けて蓮子の絵を描く。…   (帯文に付け足しました)

 これは凄まじい話だなぁ。芸術に愛された男女の、天啓を受ける側と与える側との物語。それが父親の倒錯した犯罪によって引き合わされる。互いに与え合う存在だった夏梅との関係と、対照的に奪い合うような存在の蓮子。おそらく夏梅が生きていれば、清秀の絵は違うものになって、ニューヨーク近代美術館が買うような傑作は描けなかったんだろうけど。
 清秀を叱責する伯父さんの方が、対照的に俗物でしたね。いや、料亭の継続はどう考えても無理だろう、自分はいい人になって小説を書くとか凄い生命力だわ。
 ただ、私なんかは一般庶民なんで、蓮子の行く末が気になってしまう。蓮子の親兄弟の苦悩も。誰より悪いのは康則なんだけど、最終的にそれはどこかへ行ってしまった感がありましたね。
 これ、受け付けられない人もいるだろうなあ。読み始めたら一気でしたけど。