読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

パプリカ 筒井康隆著 新潮文庫 2002年

 初出は1993年。

 精神医学研究所に勤める千葉敦子は、恋人の時田浩作ともども 精神病に対する新たな治療法の発見者として、次期ノーベル医学生理学賞候補と囁かれる人物。時田はPT(サイコセラピー)機器を開発し、敦子はそれを利用して患者の夢の中へ入り、無意識界に働きかけて治療する。あまり大っぴらにできないこの作業をする時、彼女は自らを「パプリカ」と名乗っていた。
 所長の島寅太郎に頼まれて、敦子はとある自動車メーカーの重役 能勢龍夫の不安症を、また警視監の粉川利美の抑鬱症を治療する。敦子は粉川の夢の中に、粉川が知るはずのない精神医学研究所の副理事長 乾精次郎が出て来たことに驚く。
 その少し前、時田の元から、より強力なPT機器「DCミニ」が盗まれていた。主犯は乾精次郎。彼もかつてはノーベル賞候補者と噂されていたが、実際に受賞したのは、彼の理論を下敷きにした別の人物だった。乾は時田と敦子に嫉妬し、彼を心酔する小山内守雄と共に、DCミニを利用して時田や島の精神破壊を画策する。
 DCミニは精神世界への侵入を容易にする上、時田の迂闊さからリミッターがついていなかった。分裂症患者の精神世界を投射され、自閉状態に陥る時田と島。独りで戦わねばならなくなった敦子を、能勢と粉川が手助けし、夢から現実へ引き戻す。
 DCミニは精神世界と現実との境さえ失くしてしまった。現実に怪物が現れる中、ノーベル賞の受賞が決まり、時田と敦子はストックホルムに向かう。だが、受賞会場にまで乾の化身たる怪物が現れ、敦子を襲った。能勢たちは国境も越えて、敦子を救いに精神世界を飛ぶ。…

 今敏監督のアニメ映画をちょっと前に見ていたので、人物造形の余りの違いに驚きました。
 パプリカ、節操ねぇなぁ。自分を強姦しようとする男まで、いい加減で覚悟を決めて楽しもうとする、割り切り方が半端ない。いい男なら誰でも惹かれる、それが大体地位も名誉も品性もある中年男性、ってのが作者の願望というか何というか…。モテて来たんですね、筒井御大(苦笑;)。それともこれからの女性はこれくらい奔放になっても、ということなんだろうか。
 パプリカの貞操観念(夢の中とはいえ)については、男性の考え方ではないかな、と思ったり。好意を持ってくれる異性全てを相手する、ってのはなぁ。でもたとえ男女逆転でこの世界が描かれたとしても、相手の女性は中年女性にはならないんだろうな。
 心理描写の形態が『七瀬ふたたび』等を彷彿とする箇所があって懐かしかったです。現実が夢に侵食される場面は圧巻でしたし、この作品に影響を受けたクリエイターは多々いたんだろうな、と推察できました。
 どうかこの作品で、「知性ある女性は、好意を持って紳士的に接してくれる男性をみんな受け入れる」とか勘違いする人が現れませんように。