読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

なみだ研究所へようこそ!サイコセラピスト探偵 波田煌子  鯨統一郎著  祥伝社ノンノベル  2001年

 港区六本木にあるメンタル・クリニック「なみだ研究所」。
 新米臨床心理士松本清は大学の恩師に薦められ、そこへ見習いとして赴くことになった。
 研究所の所長・波田煌子は数々の臨床実績を持つ伝説のセラピスト。が実際会ってみれば、高校生のような幼い容姿と心理学の基礎も知らない乏しい知識、苛立つほどのとぼけた会話。
 こんなことで患者は治せるのか? でも今日も、クライエントはやって来る。何故か白衣を着た美人会計士・小野寺さんと三人で、美味しいお茶とお茶うけを頂きながら、波田先生の不思議な診療を手伝うことに。

『アニマル色の涙』
 動物の夢や幻覚を見ると言う48歳の男性患者。見えるのはトラ、ヘビ、キジ、クマ、リス、カンガルー、ネズミとまるで動物園。夫婦仲はいいし、子供も少ない小遣いでも喜んでくれるようないい子だと言う。精神科を紹介した方がいいと主張する松本に対し、このクライエントの悩みがあと少しで分かりそうだ、と波田先生は言う。

ニンフォマニアの涙』
 奥さんからドメスティック・レイプをされていると言う58歳の男性患者。奥さんはこの間から突然、旦那の布団に潜り込んできたり、下着を脱がせたり、果ては電車の中で痴漢行為を働いたりしたと言う。近頃変わったことは、一軒家から団地に引っ越ししたくらい。奥さんは色情狂だ、治療すべきだと言う松本に、波田先生は違う真相を言い当てる。

『憑依する男の涙』
 昨年の春頃から腹話術でしか喋れなくなったと言う36歳の男性患者。波田先生は自由連想法で治療を試みたものの、松本に言わせればそれは連想ゲームでしかない。まともな治療をしよう、と独自でクライエントに会って、小学校時代の同級生が同じ職場に来た近況を聞き、変身願望の現れだろうと推測するが、波田先生は違う結論を出す。

『時計恐怖症の涙』
 時計を壊したり恐れたりする13歳の少年。時計屋の同級生の家に遊びに行って、パニックを起こすほど。きっといじめにあっているんだ、と結論付ける松本とは別に、波田先生は違う原因を探り出す。

『夢うつつの涙』
 夢と現実の区別がつかなくなったと言う24歳のOL。四谷怪談の夢や、バットで素振りをする夢、親友が体操選手になる夢、カタツムリやゴジラになった夢etc.etc。夢判断ではなく夢占いをする波田先生に松本はあきれるが、でも波田先生は患者の悩みの本質を掴んでいた。

『ざぶとん恐怖症の涙』
 ざぶとんが怖いと言う33歳の営業職の会社員。『笑点』を見ると頭痛がするほど。症状はエスカレートし、吊革につかまることもパソコンに触ることもできなくなって会社を休んでしまった。不潔恐怖症だと判断する松本。しかし波田先生は違う治療法を処方する。

『拍手する教師の涙』
 人が失敗するのを見ると拍手してしまう理科教師。松本の恩師でもある。松本の催眠術で教師の厳格な子供時代や楽しかった思い出を垣間見た波田先生は、何故拍手してしまうのか分かったと言う。

『捜す男の涙』 
 定年が近い刑事・久保。何を捜しているか分からないまま、何かを捜してしまうと言う。サイコドラマ法で治療しよう、と言う波田先生の言葉に従って、松本は犯人の役をしたり刑事の役をしたり。とうとう久保の拳銃で、犯人役の久保を撃ってしまう。…

 鯨統一郎さんの作品を読むのは初めてです。
 デビュー作『邪馬台国はどこですか?』から読むべきかな、とは思ったのですが、abeさんはお薦めして下さってるし(多分)、紅子さんも楽しく読んでらっしゃるようだし、大谷美術館のボローニャ絵本原画展の帰りに滅多に行かない中央図書館に寄ったら丁度書棚に並んでるし、ってんで借りてみました。
 …おもしれぇ。
 語り手の松本くんが不平たらたら見苦しいほど(いや、勿論波田先生に問題があるんだけど)、でもこれを逆手にラストに持って来ましたか。
 波田先生の推理は納得行くようなものじゃないんですが、そういう所を楽しむ作品ではない気がするし。お茶やお菓子の蘊蓄を楽しむものですよね(あれ??)。
 そう言えば「まつもときよし」と打ったらまず「マツモトキヨシ」と変換されました。…すげぇ(笑)。