読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

刑罰0号 西條奈加著 徳間書店 2016年

 連作短編集、になるのかな。
 ネタばれになってる気がします、すみません;

 記憶を抽出して、画像化を行い、他人の脳内で再生するシステム――0号。これを用いて犯罪被害者の記憶――殺された際の恐怖を加害者に経験させる…。もともとは、死刑に代わる新たな刑罰として、法務省から依頼されたプロジェクトであったが、実際は失敗に終わる。0号そのものに瑕疵はなかったが、被験者たちの精神が脆く、その負荷に耐えられなかったのだ…。
 開発者の佐田洋介教授は、それでも不法に実験を強行し、逮捕されてしまう。助手の江波はるかは、さるグローバルIT企業のバックアップのもと、ひそかに研究を続けるが…。
 0号を施した者、0号を施された者たちの物語は、今、人類の“贖罪”のために捧げられる――。(帯文より)


 刑罰0号
七十四歳の佐田行雄は、ある夜、三人の若者と出くわした。後々、彼らが少女を拉致監禁、暴行した挙句、逃げ出す途中だったことを知る。佐田は、自分に向けられた眼差しが息子のそれと酷似していたことから、息子と若者の一人を重ねてしまう。被爆者支援運動に力を注ぐあまり、家族を顧みなかった自分を憎んでいる息子と。佐田は若者を探し始めた。

 疑似脳0号
野末眞は早瀬水央に恋をした。大学で知り合い、同じテニスサークルに入り、徐々に距離は縮まった。やがて野末は、水央がストーカー被害にあっていることを知る。どうやら以前つきあっていた従兄・邦貝が水央につきまとっているらしい。

 ギニーピッグ
ファミレスでバイトしている森田俊は、イケメンの大学生。奥様連中に人気が高く、バイト仲間の茜里にも気になる存在。だが彼は考え方は古いし妙に達観しているし、何だか謎めいている。何か事情を抱えているらしく、彼を目当てにクセのある三人組が訪ねてきたりもした。やがて、ネットに妙な噂が流れ始めた。森田俊は強姦殺人犯だというのだ。

 エレクトラ
0号の技術を応用した、PTSD治療のために見るTL夢が開発された。だが、その技術がハッキングされ、PTSD患者は原因となった惨事を何度も見る羽目に。開発者サラ・エルマーは、被験者の一人 蓮池良大に、ハッカーを捕まえるため、もう一度TL夢を見て欲しい、と依頼する。

 NOVO0号
犯罪加害者に被害者の感情を経験させる。元々の目的が、ようやく叶おうとしていた。そんな時、行方不明になっていた開発者 佐田洋介が見つかる。彼は国際テロ組織の一員となっていた。

 聖戦
佐田洋介は0号に失敗して以来、海外で医療行為に励んでいた。だが、国際的テロ組織に、脳科学者としての実績を掴まれてしまう。彼らは洋介に、遺体から記憶を抽出すること――0号の再開発を依頼した。

 グラウンド・ゼロ
イスラム過激派のテロ組織から犯行予告が出た。作戦名は『グラウンド・ゼロ』、彼らは「世界一平和な核を落とす」という。佐田博士もそこに加わっているらしい。彼の助手を務めていた江波はるかは、佐田に面会し、犯行の実態を掴もうとする。…


 帯文の設定を読んだ時に連想したのは、清水玲子さんの漫画『秘密』。でも読み終えて思ったのは、もしかしたらヒントを受けているかもしれないけど、これは別物だな、ということ。
 面白かったです。どの話にも一捻りあって、くるりと世界がひっくり返る瞬間が心地いい。
 失敗を繰り返し、改良を重ねる。その過程が一つ一つの短編で積み重ねられる。
 どんどん大きくなる風呂敷に、「大丈夫かなぁ」と心配もしましたが、きっちり着地されましたし。そう、こうでもしないと平和に対する思いは伝わらないかも。
 イスラム側の、西洋文化に対する意見には「なるほど」とも思いました。…でも今は、そちらも価値観押し付けてる人いるよね、とちょっと思いましたけど。
 綺麗に終わり過ぎた感もなきにしもあらずですが、でもやっぱり後味はいい方がいいですもんね。