読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

琥珀の夏 辻村深月著 文藝春秋 2021年

 大人になる途中で、私たちが取りこぼし、忘れてしまったものは、どうなるんだろう――。封じられた時間のなかに取り残されたあの子は、どこへ行ってしまったんだろう。

 かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女ミカに出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
 遺体が「自分の孫ではないか」と相談しに来た老夫婦に依頼され、法子は〈ミライの学校〉の窓口の女性に会う。不愛想な彼女こそ「あの子」田中美夏だった。
 安堵すると共に、美夏の変わりように不審を抱く法子。結局遺体は別の少女で、親には北海道の施設に移った、と伝えられていたらしい。そして美夏も、彼女と行動を共にしていたことになっていた。美夏が何かを知っているのではないか、と被害者の母親は美夏を告訴する。法子は美夏の弁護を引き受けた。断る美夏に、法子は「話がしたい」と切り出した。
 30年前の記憶の扉が開き、幼い日の友情と罪があふれだす。   (出版社紹介文に付け足しました)

 相変わらず、子供社会の書き方が見事。法子の、頭のいいことがかえって揶揄の対象にになる、って辺りの描写には、さすが辻村さん、と舌を巻きました。
 読み始め、〈ミライの学校〉を自分の中でどう位置付けていいか迷いました。胡散臭い怪しい集団と思っていいのか、頭の中で警報ランプが鳴る感じ。でもやってることはサマーキャンプみたいなもんだよなぁ? 多分この時点で、作者の掌の上ですよね(笑)。
 回想の章と現在の章の二本立てで話が進みます。そのせいか、時系列をはっきり掴むのにちょっと時間がかかりまして、「泉の水に不純物が混ざってた」のがミカの流した水性絵具のせいなのか?とちょっと混乱したり。…これは私だけだろうなぁ(苦笑;)。
 子供だけの世界で起こった出来事。その教育方針がいい、と思った人も勿論いるだろうけど、子供を厄介払いのようにして預けた親もいるようで、それは何だかなぁと思いつつ。でも四六時中一緒にいたら、ストレスが溜まってしまう親もいて。ある程度離れていた方が愛情を素直に注げるタイプの人もいるし、という実証が、主人公法子を通じて描かれたのが身に沁みました。うん、読者も悪く思わないよね。とりあえず、「何かあった時」に咄嗟の行動を取れる大人は必要だったよなぁ、特にヒサノちゃんみたいな問題児がいたのなら。でもそのヒサノちゃんにしても、おませで自我が強かっただけな気はしますし。
 「カルト集団」と揶揄されるような場所でも、彼女たちにとっては大切な逃げ場所だった、受け入れて貰える、受け入れられる場所だった。美夏はそこの根本を否定されてしまった訳ですが、そこで知り合った法子には再び受け入れられた。せめてよかった、と思いました。世間の目がこれから苦しいかもしれないけど。