読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

臨床の砦 夏川草介著 小学館 2021年

緊急出版!「神様のカルテ」著者、最新作

「この戦、負けますね」
敷島寛治は、コロナ診療の最前線に立つ信濃山病院の内科医である。一年近くコロナ診療を続けてきたが、令和二年年末から目に見えて感染者が増え始め、酸素化の悪い患者が数多く出てきている。医療従事者たちは、この一年、誰もまともに休みを取れていない。世間では「医療崩壊」寸前と言われているが、現場の印象は「医療壊滅」だ。ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来すなか、病院は、異様な雰囲気に包まれていた。
「対応が困難だから、患者を断りますか? 病棟が満床だから拒絶すべきですか? 残念ながら、現時点では当院以外に、コロナ患者を受け入れる準備が整っている病院はありません。筑摩野中央を除けば、この一帯にあるすべての病院が、コロナ患者と聞いただけで当院に送り込んでいるのが現実です。ここは、いくらでも代わりの病院がある大都市とは違うのです。当院が拒否すれば、患者に行き場はありません。それでも我々は拒否すべきだと思うのですか?」――本文より    (出版社紹介文より)

 夏川さんの作品を読むのは初めてです。
 もう、書かずにはいられなかったんだろうな。この現状を伝えなきゃと思ったんだろうな。この国は本当、現場の頑張りに頼り切りで、また現場がなんとかこなしちゃうんだよな。嫌味言ったり不平不満を漏らしたりしながらも、登場人物は皆それぞれの誇りに賭けて最善を尽くす。だからこそそれに甘えて、国なり自治体なりの改善策が後手後手に回るんだろうな。…ってこれは日本の社会全体に言えることだと思うんだけど。
 アビガンだのレムデシベルだの、薬名が何の説明もなく出て来る所に、コロナがいかに浸透しているかわかろうというもの。昨日まで元気でいた人が、いきなり容体急変する恐怖。時々刻々と変わっていく状況。私立病院等がそっぽを向く状態も、気持ちは理解できるんだけど辛い。責任を取りたがらない、こういう所も日本あるあるだよなぁ。医療従事者としてきっと後ろめたく思ってるんだろう、とは思いたいんですが。
 いずれコロナが過去のものになって、この作品を読んだ人が「こんなこともあったのか」って言える日が来ますように。その頃には、この日々を踏み台にして、いかなるパンデミックが来ても臨機応変に対応できる国になっていますように。…これはでも無理そうなんだよなぁ。