読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

御坊日々(ごぼうにちにち) 畠中恵著 朝日新聞出版 2021年

 時は明治20年、浅草の東春寺の僧 冬伯にまつわる連作短編集。廃仏毀釈の折に死んだ師僧について迫っていく。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 色硝子と幽霊
 廃仏毀釈で廃寺になった浅草東春寺を、かつてこの寺で修行していた冬伯は、相場で儲けた金で買い戻した。檀家はまだいる筈もなく、生活費は変わらず相場での稼ぎに頼っている。その噂を聞きつけて、料理屋八仙花のおかみ 咲が相談事を持ち掛けて来た。
 八仙花は江戸から明治への激動期を、おかみの才覚によって切り抜けてきた。だがもう時代の流れ、移り変わりについていけなくなってきている。幽霊騒ぎまで起きているのに 息子はどうもお気楽に考えている風だし、夫も相場で資金を捻り出せばいい、と甘いことを言い出した。どうか夫に、相場師としてのこつを教えてやって欲しい、という依頼を断り、冬伯はその代わりに、と料理屋としての趣向を提案する。

 維新と息子
 八仙花からの紹介で、北新屋の昌太郎が相談に来た。昌太郎は母親から、実の子ではないと疑われているらしい。赤ん坊の時に間違われた可能性があるとのこと、その時の赤子 文吉を探し出してみたが、容姿を比較しても決定打にはならなかった。文吉に多額の借金があることが判明しても、母親は文吉の方を我が子だと思っているらしい。昌太郎は思い切った決断を下す。

 明治と薬
 具合を悪くした隣の神社の宮司 敦久が治療を受けに来た。敦久は、冬伯のかつての兄弟子でもある。大雨の中、上野貧民窟の若者三人が、敦久がお宝を持っている筈だと東春寺に乗り込んで来た。それはかつてあった上野を公園にする計画書で、情報源は元警官の西方という者らしい。話を聞き合わせて、おそらくそんな計画書はないと判断する冬伯。若者は仲間割れして、東春寺にあった日用品等を盗んで行ってしまった。

 お宝と刀
 先日東春寺を襲った若者の一人が、役者として売り出し始めた。その界隈では、冬伯が徳川埋蔵金を見つけたと噂になっているのだとか。元警官の西方も現れて、徳川埋蔵金の話に花が咲く。本当に存在するのか、まだあるのか、使われたとしたら何に使われたのか。ひょんなことから、外務大臣の名前まで出て来た。

 道と明日
 上野の公園化計画と、冬伯の師僧の死は関係あるのだろうか。埋蔵金は本当にあったのか。外務大臣を八仙花に招待することに成功した冬伯たちは、芝居仕立ての趣向で大臣に当時のことを思い出させようとする。…

 畠中さん、この時代好きだなぁ。
 知らないことが多かったので、色々勉強になりました。そうか、江戸のお寺は大部分が無事だったのか。中央から離れれば離れるほど、神仏分離令が曲解された訳だ。漢方薬の販売が規制されたりとか、でもこれは安全面の上でも考えられた方がよかったでしょうね。
 お話の面ではちょっと都合よく行き過ぎかな、と思う箇所もあり、これはラスト近辺で弟子の玄泉からの指摘もあって、思わず「…予防線張るなよ」と苦笑してしまいました。師僧の死因は肩透かしというか、でも実際あんなものなんでしょう。でなければこの先、冬伯たちは東春寺で暮らせないでしょうし。
 目まぐるしく変わる世の中、多分今の時代のスピードより凄まじかったんだろうな。現代はそれでも日々開発されてだけど、当時は外国から途中経過なくいきなり色んなものが入って来た訳で。それについて行けて、その上で経験も持っていたら最強、ってことなんでしょうね。日々積み重ねられた上でのみ得られるものがあると思いたいものです。