読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

残月記 小田雅久仁著 双葉社 2021年

 月にまつわる短中編。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 そして月がふりかえる
 私立大学の社会学部に准教授の職を得て、大槻高志は漸く詩織と結婚した。子供にも恵まれ、月一回の外食を楽しみにしている。だが今夜、いつものレストランで、妻も子供たちも彼を見知らぬ他人として見てきた。ついさっきまで自分が座っていた席には別の男がいる。空には満月、高志は「自分の家」の屋根裏部屋へ潜り込む。

 月景石
 29歳で病死した叔母には石を集める趣味があった。うちの一つ、叔母が「月景石」と名付けた風景石を遺品として譲り受けた「わたし」澄香。叔母曰く、それを枕の下に入れて眠ると、月世界の夢を見るのだとか。同棲相手の男 斎藤の言葉もあって試してみる澄香。そこでは自分は、「イシダキ」と呼ばれる何らかの特殊能力を持った人間だった。同じ「イシダキ」の人々と、月世界を支える大月桂樹の元に連れて行かれる夢を見る。マンションの隣室の不遇な少女や、斎藤をも巻き込んで。

 残月記
 月昂と呼ばれる感染症が蔓延している近未来。月の満ち欠けに感情や体調、生命力まで左右される感染者は、独裁政権下、施設に隔離収容され、死を待つばかりの筈だった。だがある一部の者は、秘密裏に行われる地下格闘技戦の闘士となっていた。
 感染者の宇野冬芽は恵まれた体格と剣道の経験を活かし、めきめき頭角を現す一方、勝者に与えられる権利で昵懇とになった勲婦人質に取られ、断ることのできない状況で、彼は競技場に向かう。…

 あちこちの書評で見かけた一冊。それを象徴するかのように、借りた本は発売2カ月で既に3刷でした。
 いや、これこそファンタジーノベル大賞に応募すべき作品でしょう!? 『残月記』なんて、すげー正統派なファンタジーノベル大賞らしい作品なんですけど!? 
 視覚に訴えられる描写は相変わらず、『月景石』の大月桂樹の内部での虐殺(?)や 地球に降臨する様子、『残月記』死後の世界(?)の白い砂漠のありさまはありありと思い浮かびました。
 孤独を感じる人たちが寄り添う哀しさ、これは三作品共に共通するような。
 『残月記』では、それでも漸く安寧が手に入るかと思われたのに、周囲に振り回されて追い詰められる。で、そこからですよね。月昂者への迫害の様子とか瑠香との何気ない会話とかが生きてくる後半には「…あっ…!」でした。旧約聖書とのこじつけとかタイタニック号とのエピソードとか、伝奇物には避けて通れないくだりは個人的に大好きです(笑)。
 「瑠香のために世界を作る」として、実際に世界を作った冬芽。幸せな夢を見ながらも、これは最期だと自覚してしまう冷静さ。切ないんだけど、妙に読後感がいい。
 作品の並びからしても、現実から不可思議な世界へ、への移り変わりが絶妙でした。