読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ディアスと月の誓約 乾石智子著 早川書房 2013年

 乾石智子、5冊目。
 ネタばれあります、すみません;

 月が満ちるように知恵が満ちて、海が満ちるようにときが満ちれば、このくりかえしの悲劇は終わりを告げるだろう――。
 魔法使いが二つの月をひきずり下ろし、その力で地をなした<緑の凍土>。伝説の獣の角に支えられた儚きその国に生まれた少年は、彼を育んだ国と大切な人々のため、いま勇断する。
 これは無垢なる願いの物語。
                                      (帯文より)


 かつて竜の力を得た魔法使いが月を引き下ろして創った王国<緑の凍土>。極寒の地で唯一豊穣の恵みを享受するその国を支えるのは、伝説の鹿サルヴィの角。それが崩れるたび、王国は災厄に見舞われて来た。
 ディアスは、第三王子でありながら家臣・マイハイとその妻ムッカに育てられた。ムッカは、かつて流行り病にかかった折、こっそりマイハイにサルヴィの角の粉を薬として与えられ、服用したことがある。以来、その副作用か、自身が伝説の鹿サルヴィであった夢を繰り返し見ていた。その夢で、サルヴィは創国の魔法使いに首をかっ切られ、呪いにも似た歌を歌いながら死んでいく。その夢はムッカの息子イェイルにも、そしてムッカの乳を飲んで育ったディアスにも受け継がれた。
 数年ごとに訪れるサルヴィの角の崩壊、その度に流行る傾国の病。今では養母ムッカも、乳兄弟のイェイルも亡い。喪失感を抱えながら、それでもマイハイの加護の許、ディアスは王位継承争いとは無縁の穏やかな日々を送っていた。しかし異母兄オブンの奸計により、サルヴィの角破壊の濡れ衣を着せられて故郷から追放されてしまう。同じ頃、オブンの娘であり幼馴染みのアンローサにも危機が迫っていた。
 ディアスはサルヴィの角に頼らない国の安定の方法を探して南に、アンローサは父親から逃れるために北へ向かう。ディアスは砂漠の向こう、赤き海で、かつて魔法使いに力を与えた瀕死の竜と邂逅。まだ生きようと貪欲な竜に呑まれかけるが、体内のサルヴィの助けも得てそれを撥ね退け、王国崩壊を食い止める術をも知る。今までサルヴィを殺して来た分の報いを、人がこの身に受けねばならないということを。
 王が遠征し、新たなサルヴィの角を持ち帰ることで食い止められていた崩壊。死後もディアスの傍にいたイェイルが、新たな可能性を指し示す。ディアスの選択が、未来を切り拓く。…


 梨木香歩さんから続いて乾石さん、ってんでうきうきしながら開いた一冊。
 読みかけて、でもちょっと「…おや?」と思ったり。
 …ちょっと熟成不足じゃないかなぁ。それともこちらのハードルが勝手に上がっているだけかしら。
 ものすごく細かいことを言うと、例えばディアスの養母ムッカの名前が、いきなりマイハイの台詞で出て来る。「こんな人出てきたっけ?」「これは誰?」と前の頁をめくり、登場人物紹介を確認し。…今までの作品ではこんなことはなかった気がしたんですが。最初の頃の視点が定まってない感じとか、もっと練ってから世に出すつもりだったんではないかしら、といらない気をまわしてしまう。
 ディアスが竜と出会う所とか、イェイルも交えたサルヴィとの会話とかは、「そうそう、これでこそ乾石さん」とも言うべき表現力だったのですが。
 急いで書き過ぎなんじゃないのかな。一年に一冊でいいから、じっくり隙のない作品を書いてくれたら、それでいいのにな。