第13回本屋大賞受賞作品。
高校二年生の時、たまたまピアノの調律に来た板鳥を体育館に案内して、外村はその作業に魅せられた。北海道の山村を出て専門学校に入り、調律師となって板鳥と同じ職場に就職する。そこには他にも数人の調律師がいた。
柳は独特の例えで音を表現する。バンドでドラムを叩いたりもしている。シビアな物言いをする秋野は、ピアニストを目指していたらしい。板鳥はコンサートホールのピアノを任される腕前で、海外奏者から指名が来るほど。見習いとして柳に就いた外村は、家庭のピアノを中心に修行に励む。
「別の人を寄越せ」と言われたり、引きこもりらしい青年の心のよすがを引き出す手伝いをしたり。ふたごの姉妹 和音と由仁がいる家庭では、華やかな演奏をする妹 由仁への劣等感に苛まれる姉 和音の静謐なピアノに惹かれ、余計な失敗をしたりもした。だがその真摯で丁寧な仕事は、こつこつと周りに認められていく。
ある日、由仁がピアノが弾けなくなってしまった。つられて和音も。ただ待つしかない調律師、でも万全の態勢をいつでも整える。外村は和音の復帰を信じていた。…
先日、NHKでショパンコンクールの舞台裏、みたいな番組をやっていまして、そういえば話題になってた作品があったよなぁ、調律師を扱ってたよなぁ、と手に取りました。
まぁ何と優しい作品。基本、縁の下の力持ちである調律師がピアノに寄り添い、全力を尽くす。職人さんの、静かな、確かな世界。
主人公の、才能がないと言いながらそれでも一歩一歩技術を手に入れていく姿には、やはり心が打たれます。
調律師によってピアニストを諦めるような残酷な場面もあるんですが、それでも希望に満ちている。ピアノが弾けなくなってしまった由仁にも前向きな救いが残される。
先のTV番組で実際にピアノを調律している映像を見ていたこともプラスでした。調律場面の描写が、ああ、あそこを外してたよなとかフェルトってあそこか、とかすぐ浮かびましたし。
するすると読めて、静かな余韻が残る。凄く後味が良い。
心が洗われる作品でした。