読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

丹生都比売(におつひめ) 梨木果歩作品集 梨木果歩著 新潮社 2014年

 短編、掌編を集めた作品集。

月と潮騒
 冷蔵庫から、潮騒の音がする。エアコン代わりに扉を開けっ放しにしてその音を楽しむ。まるで生き物のような。

トウネンの耳
 植物図鑑の中に挟んでいた葉が、部屋の中でちりちりと音を出している。そう、あれはトウネンの鳴き声だ、と亡き夫を思い出す。

カコの話
 公園の池でカコを釣った。自分のそれは人魚の姿をしていた。家に連れて帰って妻に見せる。委員がやって来てカコを連れて行く。私は妻との過去を思い出す。

本棚にならぶ
 最近ものにぶつかると、その部分が損なわれるようになった。変わったラインナップの並ぶとある本屋で、私は右目を損なった。失くした右目を探すうち、ほかの部分も損なわれ、本棚に並んで行く。

旅行鞄のなかから
 旅好きだった叔父から譲り受けた旅行鞄。見知らぬ女性がついてきて、鞄を開けさせようとする。彼女は自分の過去について詳しく知っているようだ。

コート
 母の好みで、姉とのお揃いのサイズ違い同じデザインのコートを9着着続けた。毎回のお古にうんざりしていたが、姉もうんざりしていたらしい。16歳以降、姉は自分の好みのジャケットを着るようになった。インカでバスの事故に遭い、亡くなった時も。

夏の朝
 夏ちゃんは百合から生まれた春ちゃんと友達だ。だけどその存在は、お母さんに否定されてしまった。自分の中に春ちゃんを大切に保管した夏ちゃんは、今度は学校の先生に目をつけられてしまった。そんな夏ちゃんのために、今度はお母さんが先生と戦う。穏やかに、緩やかに。

丹生都比売
 謀反の疑いをかけられぬよう、大海人皇子は僧形になり一族郎党引き連れて、吉野の山奥に隠棲した。十歳にも満たない草壁皇子は、そこで唖の少女・キサと出会う。病弱で、荒事を好まない草壁皇子は、母親・鸕野讃良皇女(持統天皇)からも歯痒く思われている存在。大友皇子からの出兵の情報がいつもたらされるか、という緊迫した状況の中、出された占はいずれ皇子は母親に殺される、というものだった。

ハクガン異聞
 ピアノの調律をした帰り、山崎さんは道を間違えてしまった。迷い込んだ山を越えて、山崎さんは一軒の家の前を通りかかる。その家にいた老婦人は、ピアノの調律をした家主の母親に当たるらしい。…


 『丹生都比売』って以前読んだことあったよなぁ、と思いながら借りた一冊。別の出版社から出てましたよね、とか言いながら内容ほとんど忘れてたんですけど。
 多くが、梨木さん独特の、現実と不思議が入り混じる物語。境界線も曖昧で、その混沌ぶりが心地よいものもあれば、「…訳分からないぞ;;」と思ってしまうものもあり;;
 『夏の朝』が好きかなぁ、自分の世界と外の世界に、なかなか折り合いがつかない夏ちゃん。途中で代わった先生と相性があわなくて、でもその先生に対処してくれたお母さんが、何とも逞しく賢くて、凄い、と思いました。語り部が家にいる今はない人、というのもいかにも梨木さんらしい。ただ、ガンダムのコックピットは目じゃなくておなかにあるんですけどね。