短編集。
悟浄出立
天竺への旅の途中、悟浄はふと八戒に前世について尋ねる。希代の名将と謳われた天蓬元帥と、現在の八戒の姿が重ならなくて。八戒は語る。結末だけを追うが故に強かった天界の自分と、過程を重視できるようになった現在の、人間界の自分とを。
趙雲西航
公安から成都への船上にて。趙雲は張飛への苛立ちを募らせていた。張飛のせいではない。苛立ちの原因を、趙雲は諸葛亮との対話で自覚することになる。
虞姫寂静
四面を楚歌で囲まれた陣中にて。項羽の寵姫 虞美人は、陣から逃げるよう命令される。かつて項羽から贈られた玳瑁の簪と璣の耳飾り、「虞」と言う名を返せ、とも。その真意を知って、虞は最後の戦を前にした宴で舞い歌う。
法家孤憤
秦王の暗殺未遂が起きた。犯人の名前を聞いて、官吏の京科は戦慄する。それはかつて、自分と共に地方の官吏試験を受けて、おそらく手違いで自分の代わりに落ちた人物だったから。法治国家の重要性を自分より熟知していた人物が、何故それを推し進めていた王の暗殺を謀ったのか。
父司馬遷
父 司馬遷は諌言が帝に受け入れられず死を賜り、極刑を免れはしたが宮刑を受けた。母は離縁し、兄二人は官吏の道を諦めた。女ゆえに教育も授けられず、期待もかけられなかった末娘 栄は、騒乱の中でも蔵書を売ることを頑として拒んだ父が、今先祖伝来の星の観測道具を打ち壊し、蔵書を燃やそうとしていることを知る。故事にちなんで、自分に「栄」と名付けた気概はどこへ行ったのか。栄は父に檄を飛ばす。…
そういえば読んでなかったなぁ、と借りた一冊。
連想したのは太宰治とか芥川龍之介、歴史上の人物や有名作品の一コマを自分なりに解釈して描き出す。――ってこれ、二次創作の基本だよなぁ、よしながふみさん曰く「学説」ってやつだよなぁ、とどちらが先だよ!的な少々ピントのずれた感想を持ちました(苦笑;)。
個人的に、『父司馬遷』について、羨ましく思ったり。娘に発破をかけられて、お父さんやる気になってよかったねぇ。ここで運命が分かれた訳で、そのまま埋もれていくならそれも定め、ってことか。胸に痛いです。