「日本ファンタジーノベル2019」受賞作品。
かなり詳しく内容を書いてしまいますので、興味を持たれた方はこの記事は読まない方がいいかと思います。
父が託した二つの遺物。偽史と小説、大国・伍州(ごしゅう)で長らく虚構とされた二書には伝説の国、壙(こう)とジ南を巡る、ある悲劇が記されていた。書に導かれるがまま、約束の地を訪れた「私」が見た光景とは。そして二つの虚構が交わる時、世界の果てに絢爛たる真実が顕れる。
5000と70年の時を繋ぐ、空前絶後のボーイ・ミーツ・ガール。 (出版社HPより)
伍州の南端 三石県で発掘された矢形の装身具には、壙とジ南の二国の名が刻まれていた。ただ、未だかつてそんな国の存在は確認されていない。考古学研究社の梁斉河はこの二国の研究を命じられ、偽史『歴世神王拾記』と小説『南朱列国演義』の中にその名を見つける。果たして、正史にない二国とは何なのか。梁はこの二書を読み始めた。
『歴世神王拾記』において、天地開闢からその記は始まる。その昔天地が始まった後、地神が生み出した識神が集まって、年に一回、晩秋に黄原にて宴礼射儀が行われている。壙の螞九は弓矢が何かも知らないまま儀式に参加し、摯鏡という心身ともに尊敬すべき識神と、瑤花という童女と出会う。
散々な結果を得て一年間鍛錬を積んだ螞九は、翌年手製の弓矢で射儀に参加、最後の二人まで残るが、そこで弓が折れてしまう。瑤花は螞九を称え菫の花冠を贈り、螞九はそれに対し、折れた弓と、来年には矢を返礼すると約束する。故国への帰り道、螞九一行は沽人 禺奇の隊商と出会い、弓を購入した。代価は瑤花のくれた花冠。それを手放すことに、大いなる後悔を抱きながら。
果たして翌年、螞九は勝つ。だがその刹那、沽人の軍隊が押し寄せて来た。螞九の与えた花冠を、結界を破るよすがとして。
さしもの識神たちも、急襲とあまりにもの人海戦術に倒れた。螞九の瑤花への矢形の首飾りは奪われ、肉体は43201の肉片となった。
あまりにも長い年月の後、螞九の肉片は蟻となり、螞九の頭骨を中心に棲家を広げて行った。やがて人の中に入り込み、人を操ることを覚える。作ったのは蟻の国、壙。沽人の国禺と対立していく。幾度かの攻防の後、第十二代禺王は破れ、矢形の首飾りは壙国の玄室に残された。
『南朱列国演義』においては、ジ南国が壙国の王子真气を迎え入れる所から始まる。真气は五年間、ジ南国で祭祀を執り行い、女王瑤花と友誼を結ぶ。ただ、真气は目を閉じたまま。彼がジ南国で見たものは、別れ際の瑤花のみ。壙国は送り込んだ使者の目にしたものを取り込んで相手国を侵略、征服するという手段を取っており、真气はそれに逆らった者として、帰国後 螞帝の塚の一部になっていた。
友達を救おうと、瑤花は壙国に赴く。真气を蟻塚から引っ張り出し、ジ南国に戻る。ジ南国と壙国との戦争が始まろうとしていた。螞帝 螞九の、真の望みを差し置いたまま。…
読み始めてすぐ思いました。これ、絶対好きなヤツじゃん。
最後まで読んで、その思いは変わりませんでした。うん、好き。
ただ一つの思いを遂げるため、五千年の時を超える。今までの日本ファンタジーノベル大賞受賞作の、正統な後継作品。『後宮小説』だったり、『楽園』だったり、『絶対服従者』も連想したな。『ヱヴァンゲリヲン』も。スプラッタというか、不気味さ、残酷さも内包しつつ、でも後味爽やか。真气がジ南国で目を閉じていたこと、つまり小説ならではのトリックも仕掛けられていて、それが明かされる時には「ほら来たあッッッ!」ってなもんでしたよ(笑)。二つの物語が繋がって行くさまに、もうわくわくどきどきしました。
真气が素直に全てを見ていれば、もっと話はスムーズに運んでいたのかもなぁ(笑)。 螞帝もすぐ思い出していたろうし。
いや、面白かった。この作家さん、追いかけて行こう。