読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

テンペスト 上下巻  池上永一著  角川書店  2008年

 上巻:若夏(うりずん)の巻、下巻:花風(はなふう)の巻。
 時は十九世紀、琉球王朝末期を駆け抜けた一人の少女の物語。
 ネタばれと言うか、かなり最後まで粗筋書いてます。出たばかりの本で本当、すみません;

 龍の荒れ狂う嵐の日、琉球第一尚氏王朝の血を引く孫家に一人の子供が産まれた。孔子も顔負けの才気を持ち、琉球中にその名を轟かすと告げられたその子は女の子だった。お家再興を願っていた父親はすっかり落胆し、女の子には名前も付けず放置。親戚筋から男の子・嗣勇を引き取って教育するが、嗣勇は歌舞音曲には才能を見せるものの、学問はからきし駄目で、父親のプレッシャーに耐えかねて、ある日行方をくらませてしまう。女の子は自ら「真鶴」と名乗って、溢れる知識欲のまま孔子孟子を読破、独学で13ヶ国語をマスターし、義理の兄に代わって身分を偽り科試を突破する。かくして宦官「孫寧温」が産まれた。
 13歳史上最少年齢で科試に受かり、喜捨場朝薫と言う好敵手を得て、王宮に勤める寧温。清国からの正使・冊封使をもてなす踊童子の中に、兄・嗣勇の姿を見つけ驚く。嗣勇も自分の才能を使って、花当(はなあたい)として王宮に上がっていた。
 あまりにも優秀な寧温は、上司や同僚から妨害や意地悪を受けながら辣腕をふるって行く。財政難を救うため賃金カットを敢行、薩摩から金を借り、清国の要求にはのらりくらりと逃げ回る。うなじゃら(王妃)たちが住む女の園・御内原にも手を入れ、破天荒な巫女・聞得大君に正体を見破られ脅迫されながらも、最終的には阿片の密売組織を摘発する。英国の難破船インディアン・オーク号の乗組員を助け、イギリス女王からナイトの称号も受ける。だが、首里天尚育王が薨去し、代わって王位を引き継いだ幼い王・尚泰王に取り入って琉球を乗っ取ろうとする清国の宦官・徐丁垓に我慢できず殺害。その罪を受けて、八重山島流しとなる。
 八重山で米国海軍の軍艦の砲撃を受け、列強各国の脅威をまざまざと感じる寧温。だが王宮にその危機を察知している者はいない。何とか本島に戻りたいと願うものの叶わず、寧温は黒水熱(マラリア)に罹って生死を彷徨う。伝染病患者として隔離され、捨てられた寧温は神命を授かり、九死に一生を得る。
 庶民として暮らし始め、生活の苦しみを知る真鶴。やがてその美しさが在番役人の眼に止まり、再び王宮に戻る。踊りを披露するだけのつもりだったのに、連れて行かれたのはあごむしられ(側室)選びの試験場だった。
 真鶴は朝薫の従妹・向家のお嬢様真美那と共に泰王に見染められてしまう。御内原で真美那と言う親友を得たものの、王国の危機に何もできず歯噛みする日々。黒船の来航に評定所の役人の誰も渡り合えず、ペリーに対抗できるのは寧温しかいない、と八重山の寧温に恩赦が下る。真鶴は嗣勇の協力を得て、寧温と真鶴の二重生活を決意。米国の眼を日本に向けさせて、琉球とは有名無実の条約を結ばせることに成功する。
 清国が弱体化する一方、薩摩からの圧力は増してくる。王宮内の派閥争いは激化し、朝薫や嗣勇も左遷の憂き目に会う。真鶴は王の子供を懐妊したこともあり、一線から身を引いた矢先、薩摩藩主が死去。再び朝薫は返り咲くが嗣勇は戻れず、腹立ちまぎれに寧温が女であることをばらしてしまう。
 久米島への島流しの刑を言い渡される真鶴。真美那は御内原へ放火までして真鶴と王子を逃がす。7年が経ち、真鶴が息子・明とひっそりと暮らす中、江戸幕府大政奉還したと知らせが入った。いよいよ日本の脅威が迫り、琉球王朝が終わろうとしていた。…

 池上さんのデビュー作『パガージマヌパナス』を読んだのは確か、1995年の春先。当時震災のため父の知り合いのお家に避難させて貰っているという状況でした。風邪引いて熱出してハナずるずる言わせつつこたつに潜り込み、それでもぐふぐふ笑いながら読んだのを覚えてます。おかげで池上さんの名前や浜ちゃんの『wow war tonight』を聞くと、反射的にお世話になった御宅やバス停からそこへ通じる道のりが浮かんで来る。以来、ずっと追いかけている作家さんです。
 その分どうしても個人的な思い入れが強くて、友人たちと石垣島に旅行に行った時にも、一人「御獄行きたい、御獄~!」と主張しまくり迷惑をかけました。そして御獄で私のカメラは動かなくなってしまった、と言う(←実話)。これ読んだ後だったら「唐人岬行きたい、唐人岬~!」とも叫んでいただろうなぁ(笑)。
 初期の数作の頃の池上さんについて、「この人、沖縄以外を舞台にしてお話書けるかしら…」といらん心配もしてみたり(余計な御世話)。安心して読めるようになったのは『復活、へび女』以来です。「あ、この人大丈夫だ」「どこを舞台にしても、ちゃんと面白い」と落ち着いて見られるようになりました(一体何様;)。
 沖縄と言うか琉球について、『レキオス』だったか『風車祭(カジマヤー)』だったかで、登場人物に「のらりくらり強国の圧力をかわしていた外交上手さはどこへ行った」みたいなことを言わせてましたが、今回はまさにその話でしたね。
 ギャグなのかシリアスなのか、読み始めなかなか文章への距離感がつかめませんでした。寧温が13歳で王宮入りして以来、何年経ったのか寧温がいくつになったのか書いてないのでそのあたりも戸惑いましたし。下巻辺りで漸く慣れ(遅っ!)、そこから速度も上がりました。特に御内原の女の戦いのくだりは楽しかった~、真美那さん素敵! 茶碗は割るわ泣き落としはするわお嬢様爆弾は作るわ、隠し味はオレンジピールよね!(笑) 
 一体どこまで史実なのか気になりました。真鶴はともかく、孫寧温と言う有能な宦官は実在したんだろうか、朝薫は、真牛は、思戸は。
 ラストに近付くにつれしんどくなったのは、作者がこれだけ思い入れを込めて書いている美と教養の国を、日本が滅ぼす日が来てしまうから。…日本、沖縄を捨石にしてるよなぁ、踏み台にしてるよなぁ。真鶴の願いも雅博の誓いも、実現されてないよなぁ。
 私のお気に入りは真美那だったんですが、最終章で真牛にやられてしまいました。聞得大君からユタ(巫女)へ、ジュリ(遊女)へ、さらにニンブチャーへと言う真牛の運命は過酷すぎて辛かった。溢れるバイタリティと執念で蘇るたび、さらに突き落されるのがどうも読んでても苦しくて。…って、いや、自業自得の面もかなりあったけど(笑)、で、あの最期。…彼女の役割だったんでしょうが、やっぱり辛い。電車の中でうるうる来てしまいました。
 それにしても、8月末の発売前に図書館に購入依頼を出した本の、貸出用意できたのが10月半ば、って、うちの図書館余りにも遅くないか?? 司書さんのどなたかがガメてたんじゃないかと疑ってしまいますわ; 
 沖縄に行くことがあったら、必ず首里城に行こう。琉球王国が消えて百年以上経って、教養溢れる美の文化を日本が理解できるようになったかは疑問ですが、でもせめて敬意は払いに行こう。そう決意した作品でした。