読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

百万のマルコ 柳広司著 創元推理文庫 2007年

 連作短編集。

 キリストが生まれて一千二百九十八年の後、ジェノヴァにて。
 戦争捕虜たち、<船乗り>レオナルド、<仕立て屋>ジーノ、<僧侶>ヴェロッキオ、<貴族>コジモと<物語作家>ルスティケロが死ぬほどの退屈に苦しむ牢、そこに連れて来られた新入りの囚人<百万のマルコ>ことマルコ・ポーロ。彼は大ハーン・フビライに派遣された地で体験したという、不思議な物語を語りはじめる。

 百万のマルコ
 黄金の国・ジパングを訪れた時のこと。道にごろごろと黄金が転がっているような、仏像を彫る木の方が珍重されるような環境で、でもマルコは黄金を手に入れることができない。何故ならこの国には“他国の者に黄金を与えてはならない”“黄金を他国から持ち込まれたいかなる品と交感してもならない”という法があるから。ならば、とマルコは鉱山へ黄金を取りに出かけるが危うく遭難しかけ、結局黄金を捨てて命からがら筏で川を下って下りてくる羽目に。しかし最終的にはマルコは合法的に黄金を手に入れたと言う。その方法とは。 

 賭博に負けなし
 大ハーンの宴席で、馬駆けの賭博の約束をしてしまったマルコ。黄金の賭け率を勘違いして、何としても勝たなければ命まで危ない状況に。三番勝負を無事乗り切ったマルコの必勝法は。

 色は匂えど
 北の方、地の果つる場所<常闇の国>にて。一年中薄暮の、寒さの厳しい国にやっとのことで辿りついて、王はしかしこの国に異国者を泊めることはできないという。何故なら異国の使者が絶対に開けてはならない<闇の扉>を開けて、災厄を国中に解き放ったから前例があるから。だが使者は、開けたのは<光の扉>だと言う。言葉にも文化にも長じていたその使者が、何故<闇の扉>を開けてしまったのか。マルコがその謎を解いてみせる。

 能弁な猿
 島の王が所有するという大ルビーを買い受けるためにセイラン島を訪れたマルコ。丁度前の王からの代替わりを迎えたばかり、三人のそれぞれ長所を備えた王子が王の遺言「黄金毛の猿に託した言葉を聞き出した者が次の王」との条件に頭を抱えていた。三番目の王子に事情を聞いたマルコは、「猿から聞き出す」方法を考える。

 山の老人
 牢番が金貸しの難題に困っていると言う。マルコは自分も似たような状況に陥ったことがある、ととある山中で暗殺者を育成していた老人に問い詰められた、二択への自分の返答を教える。

 半分の半分
 “夢の町”キンサイは遊女の町。あまりにも豊かで幸せで、大ハーンの進軍にも屈しない。使者に立ったマルコにも、王の前では片膝片手をつくよう要請される。そんなことは侮辱だ、と息巻くタタール人の目の前で、マルコはどう問題を解決したのか。

 掟
 ケルマン国が大変な旱魃に見舞われた。儀式に必要な<火酒>を送る役目を言い付かったマルコだが、途中砂漠の真ん中で<砂漠の民>に出会う。<砂漠の民>の掟は「たくさん持っている者が出す」「酒は禁じる」というもの、砂漠の民は革袋の中味が酒だとは知らぬまま、それを分けろと言い出す。分けなくても酒を与えても掟破りになるこの要望を、満たす方法は。

 真を告げるものは
 ムトフィリ国は賢明な皇后が見事に国を治めていた筈だった。ところが近年よからぬ噂を聞き、マルコが調査に訪れる。果たして皇后はとある芸術家に心を奪われ、彼の絵に夢中になるあまり、政が疎かになっていた。彼女の目を覚まさせるべく、マルコは細密画の勝負を申し入れる。絵の才能など全くないと言うのに。

 輝く月の王女
 大トゥルキー国には美しい王女がいた。ただ彼女は武勇にも優れた兵士でもあり、王女を射止めるには彼女と力比べして勝たねばならない。大ハーンの孫アナンダ王子が、望んで彼女に対戦を申し込む。結局負けてしまうのだが、彼女に一泡吹かせたい、彼女の鼻面をひっつかんで引き回したいと無理を言いだす。仕方ない、とマルコは王子の望みを叶えるため奔走する。

 雲の南
 <雲の南>と呼ばれる豊かな国に、大ハーンは何人も使者を送ったが一人も帰って来ることが無い。使者に何があったのか、マルコが次の使者に選ばれる。歓待を受けた後、マルコは王に試された。すなわち、二つの饅頭のうち毒の入っていない一つを選べというもの。どちらも毒入りだと見抜いたマルコは、その次の展開まで読んでこっそり王宮から逃げ出す。その国の風変わりな風習を受けない為にも。

 ナヤンの乱
 フビライの叔父ナヤンが反乱をおこし、まだ若かったハーンが鎮圧に向かった。ナヤンは難攻不落の城に立て籠もり、何年でも闘う心づもりらしい。ハーンはある道具を作り、一晩で城を落として見せる。しなやかな棒状の板、半円の椀状の器、糸が一束と糸巻き数個を使って。

 一番遠くの景色
 ヴェネチアで、まだマルコが子供だった頃。父と叔父の異国の話に魅了されたマルコは、自分も旅に連れて行ってほしいとせがむ。ならば、と出された問題はタタール人の占い師<星見の者>にまつわるもの。彼らが見た一番遠くの景色は何か、答えれば同行を許すという。

 騙りは牢を破る
 マルコは大ハーンの選んだ娘を、花嫁として近東タタールの領主の元へ送り届けることになった。タタール人には慣れない船路を何とか制覇して、莫大な褒美を授かったという。だが、金貨の一枚も持っているわけではなさそうだ。マルコが受け取った莫大な富とは。…


 かなり前ですが、何だか話題になっていた一冊。漸く読むことができました。
 ああ、これは好き。安楽椅子探偵の典型ですね。中には察しがついてしまうものもあったのですが、でも楽しい。最後の終わり方もいいなぁ、ハッピーエンドで、ちょと寂しくて、で「もしかして…」ってあの余韻。
 柳さんの作品は長編を幾つかしか読んだことが無いのですが、こういう軽い短編もいいですね。楽しかったです。