読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

歩道橋シネマ 恩田陸著 新潮社 2019年

短編集。

 

線路脇の家
エドワード・ホッパーの絵画を見て、「私」はとある洋館を思い出す。電車の中から見かける家。いつも二階の同じ部屋に、三人の男女が揃っていた。 その不自然さに、いつも首を傾げていた。

球根
天啓学園では眠れる生徒会長を目覚めさせるため、日々生徒が研鑽している。安定した思念を送り、チューリップに溜めている。全ては生徒会長を起こすため。

逍遥
RR(リモートリアル)で意識だけイギリスに集った小津康久と岡本喜良。伊丹十時の案内で、二週間ほど前にA先生が失くした懐中時計を探す。のどかな田舎で、落としただろう場所さえ分かっているのに、時計はどこへ行ってしまったのか。

あまりりす
歴史学者 長岡森太郎を偲ぶ会で。37年に一度行われるというオマツリで死んだ彼は、どんな事故に巻き込まれたのか。教え子はその会の様子をボイスレコーダーに録っていた。

コボレヒ
木漏れ日を避けるように歩く友人。彼は幼い頃、「コボレヒ」に当たってはいけないときつく言われていたという。 

悪い春
「平和サポートボランティア制」が敷かれて聞く噂。曰く、学生が体験入学すると就職に有利に働くとか、老親が引きこもりの子供を送り込んでいるとか。 

皇居前広場の回転
皇居前広場で踊った少年の一幕。 

麦の海に浮かぶ檻
学園にタマラが来て、鼎は変わった。タマラに恋をした。タマラが校長に毒を盛られていることを知って、鼎はタマラに一緒に逃げようと懇願する。 

風鈴
行きつけの美容院の美容師さんに聞いた話。彼は風鈴が怖いという。田舎の祖父母の家に吊るしてあった風鈴、風もないのに一度だけ鳴る風鈴、彼はその後、何かが通る足音を聞いたという。 

トワイライト
闇に隠れた「私」。奴らはありとあらゆる手で私を引きずり出そうとしている。 

惻隠
猫が語る。自分の家を間借りしていった歴代の住人について。自分の誇りにかけて。 

楽譜を売る男
コンサートホールで開かれた、弦楽器のイベントにて。楽譜を売る白人男性がいた。泰然と構える風情が気になる「私」。彼の正体は。 

柊と太陽
十二月二十五日に行われる「冬至祭」。赤い服を着て、白い袋を背負った老人「三田」が、靴下に土を詰めて襲い掛かってくるという。何故こんな祭が行われるようになったのか。

はつゆめ
幼い頃から、突然、はっきりとどこかよその景色が浮かぶことがある。おそらく、誰かが見ている景色だ。

降っても晴れても
決まった時間に、傘をさして、特定のルートを几帳面な歩き方で歩く青年。ある日、彼は解体工事に巻き込まれて死亡してしまった。彼の死の真相を探る友人 伊丹によると、彼は海外からの留学生で、風土病とも遺伝病ともつかない病に悩んでいたという。 

ありふれた事件
とある地方銀行で起きた立てこもり事件について。被害者の六十代女性の身元が判明しないという。しかも、目撃者は大勢いるのに、誰も詳細を語りたがらないとか。犯人の男は、子供がする遊びを、延々人質たちに強要していたらしい。 

春の祭典
かつて、誰もいない教室で優雅に両腕を振り上げてみせた「彼」。クラシックバレエを習っていた彼は、後年プロダンサーになり、今度『春の祭典』を一人で踊るらしい。

歩道橋シネマ
とある噂がある。その歩道橋から見える、景色四角く切り取られた景色は、その人がかつて大事にしていた記憶に出会えると。…

 

 うん。あちこちで「ああ、こういうとこやっぱり好きだなぁ」と思うような記述と巡り合えて、嬉しい一冊でした。失せ物を「自分なら見つけられると思う根拠のない自信」だとか、きりたんぽがおつゆを吸ってぎっしり成長していく有様だとか。

 『麦の海に浮かぶ檻』は長年のファンとして「おおお~~っ!!!」と思うスピンオフだったし、『柊と太陽』のこじつけ感も好き。最後の最後でのネタばらしが「おお、そうだったのか!」と思うものもあれば、肩透かし感に突っ込みたくなる作品もありましたし(笑)。

 「はつゆめ」はぜひとも!長編として発表してほしいですね、「春の祭典」と共にお待ちしてすとも! 「春の祭典」主人公のビジュアルが、何故か羽生結弦選手で浮かんだのは内緒です(苦笑;)