読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

佐保姫伝説 阿刀田高著 文藝春秋 2009年

 短編集。
 ネタばれあります、すみません;

初詣で
 日枝神社で3年ぶりに会った同窓生。高校、大学も一緒だった彼女は、上昇志向の強い、尊敬できる相手だった。その彼女が40を過ぎて、「ねば」「べき」を捨てた、怠け者になったという。いい気なもんだ、とどうしても思ってしまう自分に、彼女は愛用の万年筆をくれた。

紅の恐怖
 母親の昔語りから、鏡に対する恐怖が抜け切らない。今日も化粧室で出会った女性から、鏡越しに「口紅を貸してくれ」と声を掛けられ、断ってしまった。以前職場に出入りしていた文房具店の女性にも見えたが、その彼女は交通事故で死んでしまったという噂が流れている。

大きな夢
 以前、仕事でエジプトに行った時に出会った女性同業者に、新幹線で偶然出会った。彼女は以前も今回も、グラン・レーヴというお香をプレゼントしてくれた。大きな夢を見ることができる、というお香を。

佐保姫伝説
 小さなころに父親の故郷で見た夢のような景色、春模様は幻だったろうか。人生の終焉を意識する年になって、男はその季節にその場所へ、足を運ぶようになる。うっすら記憶に残る場所には、イーゼルを立てた女性が絵を描いていた。

ちょっと変身
 この頃喉の調子がおかしい。健診を予約した矢先、仙台への出張を命じられる。そこには自分とそっくりの人間がいるのだとか。上司は、こっそり会って見て来い、と面白がる始末。

象は鼻が長い
 「象の鼻はなぜ長いか、知ってる?」5歳の孫に尋ねられ、昔付き合っていた彼女のことを思い出す。彼女は外国人相手に日本語教師をしている、という。

恨まないのがルール
 学生の頃、図書館の目録作りで知り合った女の子。何度か牽制される素振りに、いつしか別れてしまった。だが、30年ぶりに訪れた当時馴染みの喫茶店で、彼女は彼を恨んでいるという噂を聞く。 

海を見に行く
 女に誘われて、佐渡へ旅行に出かけた。山ほど海を見たい、という言葉。彼女の心の指針となっている母親の故郷だという。

赤い丸の秘密
 30代半ばの頃付き合った、二歳年上の彼女を時々思い出す。童話や児童書の好きな女性だった。ノルウェーのトロムゼへの出張を命じられて捲った地図帳に、赤い丸がついているのを見て驚く。彼女が付けたのだろうか、ここでまた彼女に会えるのだろうか。

五色の旗
 五色の旗を持って各家を訪問すると、お菓子が貰える。――田舎の風習に従って、慶二は川向うの家を訪ねた。予想もしない歓待、だが母親はそれを聞いていい顔をしない。やがて慶二は、自分に腹違いの姉がいるらしいことを知る。それが川向うの家であることも。

やきとりと電話機
 故郷の高校の先生に紹介されて、東京の大学進学を機に「津田さん」を訪ねた竹彦。バイトとして働きながら、あまりに洗練された前向きな人柄に感心する傍ら、しかし津田さんは男を見る目があまりいい人ではなかった。

カーテンコール
 その昔、銀座のクラブでバイトをしていた頃、そこでホステスとして働いていた劇団の女優さんと40年ぶりに再会した。仲の良かった三人は、今でも交流があるという。今度行く温泉旅行に誘われて、彼女も現地で合流することに。…


 題名に惹かれて手に取った一冊。氷室冴子著『クララ白書』や『アグネス白書』を読んでいた身としては、佐保姫、というのは何だか特別な響きを持っていまして。満を持して(多分)書かれた『金の海 銀の大地』も結局、終結しなかったもんなぁ。
 何か久々、日本語の美しさを味わったと言いましょうか、安定感半端ない。「つきづきしい」「蓮っ葉」等々の日本語は久しぶりに見た気がします。反対に「ふるまい」と書かずに「ビヘイヴィア」と書かれるのはどうしてなんだろう、と思ったり。「プレハブ造り」ではなく「プレファブ造り」って表記にも、何だか拘りが感じられるような。
 『大きな夢』ピラミッドの謎、直角を作るための三平方の定理には素直に感心しましたし、『カーテンコール』では「一点豪華ってそこ!?」って妙に意地悪なオチに驚きました。
 何となく嬉しかったのは『赤い丸の秘密』、作中に出て来たヒントで「これは『ニルスの不思議な旅』だよ、ケブネカイセのアッカ隊長だよ」と察しがついたこと。童話や児童書って、案外読まれてないものなのかしら。
 何かでも、男性が中年になって昔関わりのあった女性を思い出して、で自分は奥さん貰って子供もいてそこそこ幸せに暮らしてるのに、相手の女性はほとんどが独身、ってのが
 ――ずるいなぁ――
 とこっそり思ってしまいましたよ。