読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

不見(みず)の月 惑星博物館Ⅱ 菅浩江著 早川書房 2019年

 連作短編集。

 地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館苑――<アフロディーテ>。そこには、全世界のありとあらゆる美術品、動植物が収められている。
 音楽・舞台・文芸担当の<ミューズ>、絵画・工芸担当の<アテナ>、そして、動・植物担当の<デメテル>――女神の名を冠した各専門部署では、データベース・コンピュータに頭脳を直接接続させた学芸員たちが、収蔵品の分析鑑定・分類保存をとおして、“美”の追究に勤しんでいた。
 そんな博物館惑星に赴任したばかりの新人自警団員・兵藤健は、同じく新人で、総合管轄部署<アポロン>配属の尚美・シャハムらとともに、インタラクティブ・アートの展示管理や、強欲な画商などにまつわるさまざまな事件に対処することになるが――
 ダニエル・キイス推薦の名作『永遠の森 博物館惑星』、19年ぶりの続篇。          (折り返しより)

 Ⅰ 黒い四角形
楊偉作『黒い四角形』。一定の条件下で鑑賞者の目の前で崩れ落ちる現代アート。人間が自らの存在を顧みるという、楊の代表作。彼を尊敬、崇拝する若き芸術家ショーン・ルースは楊の引退を目の前にして、その作品を買い取ろうとしていた。また、ショーンを売り出したい画商のマリオ・リッツォも。だが楊自身は、『黒い四角形』を破壊しようとしているらしい。混雑する展示会の中、<博物館惑星(アフロディーテ)>の職員たちの取る行動は。

 Ⅱ お開きはまだ
盲目の手厳しい評論家アイリス・キャメロンは、記録映像を可塑性樹脂で繰り返し再現、触れることによって舞台を「見て」いる。一度のミスも許さない、細部を重視した評論は敵も多い。また新しい試み<皮膚感覚変換>も試そうとしている彼女は、新演目『月と皇帝』をリアルタイムで観賞しようとしていた。

 Ⅲ 手回しオルガン
<博物館惑星(アフロディーテ)>創設当時からいる大道芸人、手回しオルガン弾きのエミリオ・サバーニは、その姿が描かれたこともあってもはや<博物館惑星(アフロディーテ)>の歴史の一部ともいえる存在になっている。だがここに来た経緯は、どうやら訳ありの事情があるらしい。手回しオルガンが保存かこのまま使用かで意見が分かれる中、盗品だと訴えるメーカーが現れた。

 Ⅳ オパールと詐欺師
かつて宝石詐欺師として鳴らした男が、<博物館惑星(アフロディーテ)>に現れた。愛犬の歯のオパール化に情熱を燃やすライオネル・ゴールドパークによき相棒として。自らの夢を追うあまり周囲があまり見えなくなっているライオネルを、彼は騙そうとしているのではないか、それとも本当に改心したのか。

 Ⅴ 白鳥広場にて
<博物館惑星(アフロディーテ)>のキクノス広場に展示されているオブジェは、ワヒド作のインタラクティブ・アート、観客が手を加えることにより無尽蔵、無制限に形を変えていく。悪意のある客のために、自警団員の兵藤には少々危なっかしく思えるような造作になっていても、ワヒドは手を出すことを許さない。

 Ⅵ 不見(みず)の月
吉村亜希穂が持ち込んだのは父・輔の作品、次女・華寿穂を亡くしたことで名連作を描き上げた画家。だが晩年、盗まれた絵画に自ら手を加え、台無しにしてしまった一作があるらしい。鑑定を依頼する彼女は、生前、自分の作品を父親に酷評されたこともあり、父親にいい感情を抱いていない。父親が作品に込めた真意とは。…


 そうか、前作から19年も経つのかぁ。
 前作は友人に勧められて読んだ作品。生身の人間がコンピューターに接続された状態、というのはSF的にはあまり肯定的に描かれることは無い気がするんですが、それを利点として、しかもこういう芸術面で利用する、という設定にへぇ、と思った記憶があります。今回は主人公を変えて、でも懐かしい名前もちらっと出ていて、ちょっと嬉しい。
 扱われる題材が、どうもツボを突いてくるんですよね(笑)。最後の作品に対しては、積年の蟠りがそんな一作で絆されるものか? とちょっと首を傾げましたが、これは多分に私情が入ってるなぁ(苦笑;)。
 兵藤健の叔父さんへの思いはこの一冊では昇華せず、次回に持ち越しになるようです。泥棒なのか詐欺師なのか、はたして善意の第三者なのか。叔父さんもなかなか複雑なようです。