読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

箱庭図書館 乙一著 集英社 2011年

 初出 集英社WEB文庫「RENZABURO」。【物語を紡ぐ町】文善寺町を舞台にした連作短編集。
 「RENZABURO」の読者参加企画「オツイチ小説再生工場」で募集した読者投稿作のなかから著者が「リメイク対象」を選び、それをリメイクしたもの。
 ネタばれになってるかも、すみません;

 小説家のつくり方
 小説を書き始めたきっかけ、それは小学校5年生の時先生に宛てて書いたノートから。当時の思い出をあとがきに書いた著者は、活字中毒の姉・潮音から、矛盾点を指摘される。

 コンビニ日和!
 僕と後輩の島中さんが個人経営のコンビニでレジ打ちをしていた夜。閉店間際に現れた客が、僕にカッターを突き付けて来た。でも何しろさびれたコンビニ、大金などない。代わりにと商品をカゴに詰め込んでいると、警官が見回りがてら店内に入ってきた。僕と島中さんは何故か、強盗をかばって動くことに…。

 青春絶縁体
 教室ではまるで冴えない「僕」山里秀太。クラスメイトと普通に話すことさえままならないのに、文芸部の先輩・小山雨季子とは毒舌を応戦しあえる。だけど僕はある日見てしまった。先輩が教室では一人で過ごしていることを。僕たちは似ていたのだ、僕がもっとも忌み嫌う自分と。
 強い言葉を投げかけて先輩を泣かせてしまった僕は、ノートに小説を綴る。僕とよく似た人物の物語を。
 
 ワンダーランド
 小学校へ行く途中、鍵を拾った。この鍵に合う鍵穴を探してあちこちをうろついて、僕はある空き家に辿り着く。窓から見えた部屋の中には汚れた衣服、黒い染み、何かを引き摺った跡、置きっ放しの冷蔵庫。しかも冷蔵庫の扉からは長い髪の毛が見えている。慌てて逃げる僕は、夕陽を背にした犯人を見る。

 王国の旗
 車のトランクで昼寝をして、起きたら小野早苗は見知らぬ町に来ていた。廃屋になったボウリング場から出て来たのは、大勢の子ども。夜毎家を抜け出して、ここを本当の「帰ってくる場所」として遊んでいるらしい。ある程度秩序を保っているのは年長少年、ミツとハチのおかげ。早苗はミツから、自分達の仲間にならないかと誘われる。

 ホワイト・ステップ
 実家にも帰らず、アパートで一人寝正月を決め込んでいた近藤裕喜。年賀状の返事を出そうと外に出て、大晦日から降り積もった雪に奇妙な足跡がついているのを見る。いきなり始まって途中で消えているその足跡は、並行世界にいる女の子のものらしい。雪の上で筆談するうち、裕喜は彼女のいる世界と自分のいる世界の相違点に気づく。あちらの世界では裕喜は結婚しているらしいとか、彼女はこちらの世界では死んでいるらしいとか。あちらの世界で死んだ筈の彼女の母親とこちらの世界の母親を会わせてやりたくて、どんどん解ける雪の中、裕喜は彼女を捜して歩き回る。…

 これ、元ネタとどれだけ違うんだろう。知りたいような知りたくないような(苦笑;)。
 面白かったです。リメイク作品を選んだ裏話を書いたあとがきも面白かった。
 普段の乙作品とは何となく違うような気がしましたね、後味のいい、幸せな雰囲気が多いような。それでもやっぱり乙さんテイストは残るんですけど。乙さんの誠実さが伝わってくるようでした。
 しかしこの本、印税はどうなるのかな(苦笑;)。