読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

私のサイクロプス 山白朝子著 KADOKAWA 2016年

 連作ホラー短編集。

 人々が社寺参詣や湯治のために旅する時代。旅本の執筆を生業とする和泉蠟庵は、無名の温泉地や旧跡を求め荷物持ちの耳彦らとともに旅していた。しかし蠟庵はとある悪癖を抱えていた。
 「また、いつもの不毛がはじまった」
 地図を見て歩けども目的地にたどり着けず、奇妙な土地で怪異に巻き込まれてしまう。迷いし旅路で出逢うのは、哀しき亡者か強かな生者か――。ほんとうに恐ろしきものはどちらなのか。       (帯文より)

 とある山の中で、輪は和泉蠟庵や耳彦とはぐれてしまった。崖から落ちて怪我もして、いよいよこれまでと覚悟を決めた矢先、輪は一つ目の巨人に命を救われる。巨人は山奥の廃村で一人暮らしていると言う。鍛冶作業が得意で、焼けた鉄でも平気で素手で触り、口に入れて温度を確認する。輪は巨人に大太郎と呼び、一緒に暮らしはじめた。やがて大太郎は、麓の村で村人と暮したい、と言い始める。

ハユタラスの翡翠
 その漁村には、砂浜に落ちている翡翠は持ち帰ってはいけないという伝説があった。だが酒に酔った耳彦は、「翡翠」が何かもわからないまま、緑色の指輪を指にはめてしまう。翌日耳彦は、海へ物凄い力で引っ張られ始めた。

四角い頭蓋骨と子どもたち
 山賊が出るという山の中で行き着いた廃村には、四角い頭のしゃれこうべが落ちていた。その夜、一晩の宿を借りたいと訪ねて来た僧侶が、この村の経緯を語り始める。この村は、女に不具の子供を産ませて見世物小屋に売るという商売をしていたらしい。

鼻削ぎ寺
 蠟庵たちとはぐれて行き着いた山寺で、耳彦は僧侶の姿を借りた山賊に出会う。偽坊主の正体を知ってしまった耳彦は、蔵に監禁され、偽坊主に文字を教える羽目になる。

河童の里
 河童が名物だという里がある。実際、淵に泳ぐ河童の姿が見られたが、輪はまるで信用しない。その夜、耳彦はひょんなことから、村長たちが河童を「作る」所を目撃してしまう。

死の山
 「目隠し山」では山道で誰かに会っても、「いないもの」としてふるまわなければならない、怪異に出会っても気づかないふりをしなくてはならない。そうしないと、山から出られなくなるという。果たして山中に入ると、不気味で悲惨な光景が目の前で繰り広げられ始めた。

呵々の夜
 耳彦が一晩の宿を乞うた家、そこに住んでいた三人家族が、怪談を始めた。父と母と子、その誰もがピントのずれた怪談をする。

水汲み木箱の行方
 夫を亡くした女が子供二人と暮す家には、ポンプの役割をして井戸水をくみ上げる木箱があった。夫の忘れ形見だという不思議なそれのことを、耳彦は温泉宿の女将に話した。温泉を汲み上げることに面倒を感じていた女将は、その木箱を手に入れることを考える。

星と熊の悲劇
 蠟庵一行は気が付くと坂道を登っていた。坂を下りようとしても、知らないうちに登っている。人も動物も虫も区別はないらしい。同じように迷い込んだ人々が集まって暮らす村で、耳彦は美しい娘に恋をする。だが、その村は熊に襲われれてしまった。熊から逃れるため、生き残った村人たちは山を登り始める。頂上に着けば下り道があると信じて。頂上には人々を引き付ける何があるのか。…


 先日読んだ『メアリー・スーを探して』で山白さんの名前を知ったばかりの所で、この短編集の発行に行き当たりました。乙さんなら読まなきゃ、ってんで借りてみました。
 面白かったです。一話目が輪の話だったので彼女が中心人物かと思っていたのですが、メインは耳彦のようで。生理的に怖いもの、気持ち悪いものもあれば心理的に怖いものもあり、かと思うと『鼻削ぎ寺』なんか妙に理屈だってるし、でもどことなくユーモラス。『水汲み木箱』では、「…温泉汲んだら茹だっちゃうんじゃあ…」と思ってしまいましたよ。
 蠟庵先生の生い立ちはこれから徐々に明かされて行くんでしょうか。どうやらシリーズ2冊目らしいので、この前の話も読まないと。そこに「輪が何度も死んでいる」話も出てくるのかな。
 装丁も凝ってるんですが、目立つのは栞紐。茶、緑、紫の三本の糸のみで、これが妙に怖いのはどうしてなんでしょう。一見、髪の毛をはさんでいるようでした。