読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

魔道師の月 乾石智子著 東京創元社 2012年

 人々の心に潜む影を操る太古の闇をめぐり、若きふたりの魔道師の運命が交錯する。 (帯文より)

 ネタばれというか、粗筋書いてます。
 興味を持たれた方は、この先を読まずに手に取られた方がいいと思います。

 レイサンダーは大地の魔道師。大らかで兄や姉から「魔道師に大切な闇が無い」と評される性格。コンスル帝国皇帝の甥ガウザスの覚えめでたく、お抱えの魔道師として城勤めをしている。ある日、幸運のお守りとして、黒い木の幹のような円筒<暗樹>が皇帝に献上された。一目見て、レイサンダーはそれが邪悪なものだと気付く。レイサンダーのみに語りかけ、圧力をかける<暗樹>。レイサンダーはガウザスに、これが邪悪なものだと告げるが聞き入れられず、そのまま城から逃げ出してしまう。
 キアルスは書物の魔道師。優秀な兄へのコンプレックスから書物に耽り、やがて自分の中に言葉の魔力を見出したギデスディン魔法の創始者。だが大切な少女の悲惨な死から抜けられず酒に溺れ、自暴自棄になって何より大切な本『タージの歌謡集』を火にくべてしまった。ようよう立ち直って、キプスの町のイラネス神殿で祐筆の職を得、自分のしでかしたことを後悔し始めた頃、キアルスは管理官カーランと知り合う。キアルスに、カーランは告げる。断片でもいい、復元しなさい、あなたが書き直しなさい、と。そうすれば、世界の一部は戻って来る。何かにつけカーランの指示は的確で、キアルスにとって大切な存在になっていく。
 だがキアルスは神殿の仲間に溶け込めず、孤立したままカーランの家に逃げ込み、そこにあったタペストリーの魔力にとりこまれる。はからずもそれはテイバドールの半生を描いた織物、キアルスは『タージの歌謡集』を書いたその人の人生の追体験をすることになる。
 約400年前の昔のこと。テイバドールは侵略してきた異民族に父を殺され、姉を奪われてしまった。長い年月を重ねた後、集まった仲間と村を取り返したものの、姉は憎しみに捕らわれたまま抜け出せない。異民族の影に<暗樹>の存在を知ったテイバドールは、<星読み>の師タゼンと共に対抗策を探す旅に出る。
 北へ、東へ、南へ。溶岩が広がる砂漠の地で出会った魔道師オルクレから、漸くヒントになるような歌を教わり、その後も星に導かれるまま歌を集めるテイバドール達。星の異変を見て取り、十年ぶりに故郷に戻ると、村は西のコンスル帝国からの侵略の危機に晒されていた。
 コンスル帝国の司令官と和平交渉に乗り出すテイバドール。だがいよいよという所で<暗樹>が邪魔をする。姉に取り憑いた<暗樹>をテイバドールは、自らと共に原生林の彼方へ捨て去った。
 カーランの庇護の元、タペストリーから戻ったキアルスはレイサンダーと出会い、意気投合する。レイサンダーに、テイバドールの歌を教えるキアルス。レイサンダーは城に戻り、<暗樹>を封じ込めようとするが、自身も稲妻にはじかれ、未開の地へ飛ばされてしまう。命からがら、今まで<暗樹>と闘ってきた人々の歴史を垣間見るレイサンダー。漸く都に戻って来た時、そこには弟子を得、弟子を喪い、やっとのことで『タージの歌謡集』改め『タゼンの歌謡集』を完成させたキアルスがいた。
 皇帝となり、すっかり暴君と化したガウザスと、彼の元にある<暗樹>と対峙するため、レイサンダーとキアルスは皇帝の館へ向かう。人々の心に潜み棲み、破滅に導く太古の闇を退けることはかなうのか。…
 
 
 新聞に紹介されていたので手に取った一冊。小野不由美荻原規子、上野菜穂子に続くファンタジーの系譜…とか書かれるとそりゃ読まなきゃな、と思ってしまいました。でもよく考えたら小野さんって、『十二国記』しかファンタジー書いてないんですよね。
 前述の三人が揃ってアジア風の舞台設定だったのに対し、こちらは古代ローマっぽい雰囲気。そして、この作者の作品は、海外ファンタジーの系譜ではないかと思ったり。指輪物語ル・グィン、この間からちょこちょこ読んでいるサトクリフのような。でも読み始め、何より連想したのは『ベルセルク』でしたけど。特にベヘリットと<暗樹>が重なって。
 私の癖なんでしょうが、ファンタジーやSFを読むとき、読み始めとラスト近辺とでスピードが違うことがよくありまして。世界観を掴むのに時間がかかるんでしょうね、後半に読書速度が上がることが多いんですが、この作品に関する限り、かなり律速的でした。決して面白くなかった訳ではなく、じっくり読まなきゃ勿体ないような気がして。<暗樹>との決戦は結構観念的なもので、個人的には苦手な部類の筈なんですが、それでもかなり視覚に訴えられました。<暗樹>の言葉にキアルスは絶望したのに、レイサンダーは当たり前のこととして受け止める天然っぷりは何だか楽しかったし。
 ただ、伝えるための親切さでいうとどうかなぁ。何しろ色々なカタカナが出て来て、それが人名なのか地名なのか星の名前なのか戸惑いましたねえ。下手すると服装の説明だったり。一番最初は、「外套」に「セオル」とルビが振ってあったのが、次の記述では「セオル」としかない。記憶力の衰えを自覚している身からすると、これはちょっと覚悟がいるぞ、と身構えましたよ(苦笑;)。全部読み終えてみると、一々「外套」と書かれていたら、そこで引っかかっていたかもしれないな、とは思うんですけど。
 装丁は好きです。表紙の絵が、「あ、これは…」と気付いた途端、浮かび上がって来る嬉しさ。エンデ『はてしない物語』で本の描写が出てきた時、思わず表紙を確認してしまったのを思い出しました。
 とりあえず、この作者のデビュー作も読んでみよう、と思いました。色々出てくるなぁ。