読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

サクラ咲く 辻村深月著 光文社 2012年

 若美谷中学、高校を舞台にした短編集。

 約束の場所、約束の時間
 夏休み明けの二学期、若美谷中学二年三組に転入してきた菊池悠。チビで眼鏡で、ぱっとしない喘息持ちの転校生は、実はとんでもない秘密を抱えていた。隣の席の武宮朋彦がそれに気が付いたのは、悠がゲーム『ドラゴン・クラウン9』を持っているのを見てしまったから。朋彦が持っているのは『ドラゴン・クラウン2』、それもつい先日発売されたばかりのもの。
 問い詰める朋彦に、悠は自分は百年後の未来から来たタイムスリップしてきたのだと言う。新種のカビが原因の喘息に悩んでいて、その治療のためにまだカビがない時代に療養に来ているのだとか。
 裏山の遺跡で遊ぶうち、二人は本当の友達になっていく。だがその様子はクラスメイトの不審を煽って行くことに…。

 サクラ咲く
 一年五組の塚原マチは、自分の意見を主張できない、頼み事をを断れない、そんな性格を直したいと思っている。でも実際は、押しの強い友達に仕事を頼まれて引き受けてしまったり、人の意見に左右されて入るクラブを変えてしまったり。中学から一緒になった守口みなみは明るくしっかりした、憧れの存在。ある日、彼女と共に訪れた図書室で、マチは本に挟まれた紙を見つける。そこには一行、丁寧な文字で「サクラチル」。次々に見つかる言葉に共感したマチは、いつしか見知らぬ相手と文通をしていた。相手が誰なのかわからないまま。

 世界で一番美しい宝石
 若美谷高校の映画同好会は発足したばかり。メンバーは発起人の武宮一平とイケメンの生田リュウ、アニメ好きの平野拓史の三人。来年は何とか新入部員を集めて部に昇格させようと、映画撮影を計画する。一平は三年生の立花亜麻里、通称「図書室の君」に一目惚れし、何とかヒロインを演じて貰おうとスカウトに走る。元演劇部だから簡単かと思いきや、立花先輩は出演を拒否。それでも食い下がる一平に、先輩は条件を出す。小さい頃一度読んだきりの絵本、魔法使いに、世界で一番美しい宝石を作る能力を与えると言われた宝石職人の話、それを探してきてほしいと。三人力を会わせて勇んで探すが、なかなか見つからない。そのうち、一平達は立花先輩の過去をほじくり返そうとした新聞部の取材の存在を知る。宝石職人の話が、立花先輩の境遇と重なって見えた時、一平たちは自分たちなりの絵本の見つけ方に気付く。…


 正直、最初の二編を読んだ時点では、「個性って難しいなぁ」と思ってました。ジュブナイル、ということもあるのかな、沢村凛さんの書いた児童書と雰囲気似てたもので。
 でもさすが、三話目はまさしく辻村さんのカラーでしたね。高校デビューを題材にするってのは辻村さんならではのような気がします。変わろうとする努力をいとおしむ視点、それを暴く力に挫けそうになるけれど、ちゃんと共感する人物を置く温かさ。一話目とのリンクを時間軸に置いたのもあっ、って思いましたしね。
 でも実は私、本当の「宝石職人の話」の結末知りたかったんですよね~、ちょっと残念。この登場人物たちがまた別の話にリンクしていくのなら、いずれちらっとでも書かれないかしら(苦笑;)。