読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

彼女の知らない彼女 里見蘭著 新潮社 2008年

 第20回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。
 ネタばれあります、出たばかりの本ですみません;
 
 2016年の東京オリンピックを控えて、天才マラソンランナー蓮見夏希は脛骨を疲労骨折する。オリンピックの出場権を得るには、四ヶ月後、三月の名古屋国際女子マラソンに優勝しなければならない。だが、コーチの村上草平は夏希を出場させたくない。今無理をすれば夏希の今後の競技人生に大きく影響すると主張する村上に、夏希のスポンサー企業などは納得しない。彼女がオリンピックで優勝することに出資しているのだと、名古屋国際マラソンに出るのでなければ、村上にコーチを降りろとまで言う。
 悩む村上に、自ら井尻博士と名乗る男が接近して来る。自分は科学者で、パラレルワールドを行き来できる装置を開発、クーペを改造した。別世界でマラソンランナーになっていない彼女を代役として連れてくればいい。
 とても信じられない内容だったが、村上は結局クーペに乗り込み、別世界の夏希を捜す。ある世界では彼女は妊娠しており、別の世界では人気プロテニスプレイヤーと婚約してマスコミに追いかけられていた。漸く村上は、彼と一緒に走ってもいい、と言ってくれたもう一人の夏希「夏子」と出会う。
 4か月かけて、夏子はマラソンのトレーニングを積む。自分の思わぬ才能に驚き、走る楽しさを知る夏子。村上も、夏希と見かけはそっくりなのに、村上の言うことを鵜呑みにせず、理詰めで物を考えて吸収していく夏子を、単なる影武者ではなく選手として受け入れる。順調に練習をこなす夏子の前に、幼なじみの矢吹杏がライバルとして現れる。夏子の世界ではスポットライトを浴びていたのは杏だったのに、こちらの世界では夏子が杏に追われる立場らしい。
 父親を早くに亡くしたこともあって慎重な性格の夏子は、積極的な杏にはいつも何かを譲ったりアドバイスしたり、一歩引いた位置にしかいなかった。名古屋国際を共に走り、フルマラソンと言う過酷な競技に就いて初めて、夏子は自分の全てを出し切ると言う経験をする。それは確実に、元の世界に戻った夏子にも変化をもたらした。…
 
 そうか、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』な訳やね。
 つるつると読み易いお話でした。
 42.195キロ走ると言う過酷な競技で、いくら才能があったからって、4か月で優勝できるとはとても思えないんですが、まぁそれを言ってしまうとねぇ(苦笑;)。
 前半、そんなに上手いとは思えませんでした。何かね、言葉で説明するだけじゃなくて具体的なエピソードも入れなさい、ってアドバイスされて機械的にエピソード入れてみました、って雰囲気の文章(笑)。淡々とは読めるんですが、入り込むこともなく。村上コーチ、よくあれで夏子を説得できたなぁとかも思ったし。後半のクライマックス、フルマラソンを走る段になって、漸く盛り上がって来ました。…といってもやっぱりノって読んだ、まではいかなかったんですが;
 自分の限界がどこにあるのか、と夏子が気力を振り絞るシーンは、あだち充著『H2』木根君の力投場面を連想しました。自分の可能性を試そう、と前向きになるのは「いいなぁ」と思ったのですが、でもそれで、現実世界に戻った夏子が女優を目指す、ってのはちょっと唐突なような…。燃え尽きた気分も分からないでもないけれど、でもマラソン走ろうよ、才能が勿体ない;
 前半出て来た小泉くんが後半全然出てこなかったのが、個人的に少し残念。絶対何かの伏線だと思ったのになぁ。