読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

コロヨシ!! 三崎亜記著 角川書店 2010年

 三崎亜記の描くスポ根青春小説。
 ネタばれになってます、すみません;

 【掃除】古来、賓客を迎えた折に、散らかった部屋を競い合うように美しい挙措で清めたのが始まりと言われ、敷舞台といわれるフィールドの中で、長物を用い塵芥を回収するのことを基本ルールとする競技。敗戦処理で活動制限を受け、高校三年間しか活動を許されない、国家保安局の管理下に置かれるスポーツ。「頃良し」の掛け声で競技開始となる。

 藤代樹は西州公立高校二年生。掃除部に所属している。本来なら高校三年間しかできない「掃除」という競技を、祖父の手引きで物心ついた頃からやっていた。祖父はその後、行方不明になってしまった。どうやら「掃除」と関わりがあるらしい。
 キャリアの違いもあって、樹の技術は他の部員を圧倒していた。だが親友・大介からは違うものも感じていた。大介は普段は召喚部に所属して、大会時のみ助っ人として参加している。果たして、州大会に出場して直轄校の演技を目の当たりにし、樹が完膚無き敗北を味わった夏休み明け、大介は直轄校へ転校していた。どうやら直轄校からスカウトを受けたらしい。
 自分の演技に迷う樹。その前に新入部員として一年生の高倉偲が現れる。居留地にルーツを持つ彼女の掃除は、対戦競技としての色合いを濃く持っていた。樹は偲から技や基本の正確さ、偲は樹から音楽に対する親和性を教わって行く。
 無能とされる顧問・寺西の指導は、思いもかけないものながら的確だった。基準規格とは外れる塵芥を扱うことで樹は自分独自のスタイル・長物と柄掃を使った二刀流を確立し、また他のスポーツに触れることで改めて、複点視認に頼ったバランス感覚を改める。幼馴染で天下無敵のお嬢様・梨奈に巻き込まれ、居留地掃除の賭け試合に高揚を得る。そのほぼすべてに、高倉偲は関わった。
 樹と偲は州大会を勝ち抜き、全国大会に出場することになる。この結果を不機嫌に受け止めたのは、意外にも顧問の寺西だった。五年に一度開かれる世界体育祭、その国技制定を巡って、大人の世界では彼らを利用する動きが出ていた。…

 好き。とにかく好き。
 三崎さん、すごい話書いてくれたなぁ。メジャー路線を意識したのかしら(笑)。
 フォーマットから言うと、決してオリジナリティ溢れる話じゃない。樹の境遇「おじいちゃんから教わって…」とかよくあるパターンだし、特訓方法なんて『アタック№1』の頃からあるような過程だし。
 でも、三崎さんが書くとこんな風になる。「掃除」「肩車バスケ」「跳び剣」という架空のスポーツなのに、どんな競技か想像しきれないものじゃないラインが絶妙。特に「掃除」はメインだけあって、その細かな設定にはわくわくしました。「裁定士」「初付き」「巻き上げ」等々、掃除と言う競技の専門用語の筈なのに、その単語だけでどういう人物や所作や位置取りなのか察しをつかせる解り易さ。これは漢字を使ってることも大きいですね。
 登場人物に関しては結構不親切だったりするんですけど(梨奈との関係とか無駄に二重人格な主将とか)、これは今までの三崎マジックも手伝って「これも個性よね」で片づけてしまおう(笑)。
 何かね、読んでる間中楽しかった。三崎さんの作った世界に浸れて、嬉しかった。「個性の確立」ってこういうことですよね。それこそ一皮剥けたように感じました。