読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

空の中 有川浩著 メディアワークス 2004年

 有川浩デビュー二作目。
 ネタばれと言うか、かなり詳しい所まで粗筋書いてます、すみません;

 四国沖、高度二万メートルの高みにそれはいた。無色透明、「波長」を操る楕円形の高等生物。人類が保有する飛行能力・ステルス能力を遥かに凌駕し、先カンブリア末期に全地球的に発生していたエディアカラ生物群の派生生物ではないかと推測されるその生物が確認されたのは、二機の飛行機がその生物に衝突、爆発したからだった。
 一機は日本初の超音速ビジネスジェット機、試験飛行中だった「スワローテイル」、もう一機は演習中だった自衛隊機F15E(イーグル)。そのF15Eを操縦していた斉木敏郎三佐を亡くし、息子・瞬は一切の身寄りを失うことになる。その日、偶然高知の浜でぶよぶよとしたクラゲのような未確認生物を拾った瞬は、寂しさを埋め合わせるようにその生き物に愛情を注ぐ。幼馴染の天野佳江はその様子を不安に思うが、強くは言えない。やがて、「フェイク」と名付けたその生き物が、父親の死の原因となった生物【白鯨】の一部だと言うことが判明する。
 【白鯨】を最初に確認したのは、斉木と共に飛んでいた武田光稀三尉と、「スワローテイル」の事故原因を調査していた三津菱重工の技術者・春名高巳。争いを嫌う【白鯨】とコンタクトを取り平和的共存策を練るが、某国の暴走により【白鯨】は攻撃され、無数の【白鯨】に分裂させられる。それぞれが意志を持った【白鯨】の一部は「波長」を操り、日本への攻撃を開始した。
 圧倒的な報復を見て、混乱した瞬はフェイクに命じる。「仲間を殺せ」、と。すっかり瞬に懐いていたフェイクは喜んで仲間を吸収し始める。そんなフェイクの存在に目を付けたのが、「スワローテイル」のテストパイロットだった白川豊機長の遺児・白川真帆だった。真帆は父親を殺した【白鯨】が許せず、【白鯨】の排除を目的とする団体『セーブ・ザ・セーフ』を立ち上げていた。【白鯨】に対する唯一の対抗手段として瞬に参加を求める真帆。その理屈をどこか間違っている、と思いながら、瞬は真帆と行動を共にする。フェイクに仲間殺しを命じてしまった自分を、瞬は許すことはできなかった。
 一方、多重人格の病例を手本として、【白鯨】を再び一つにまとめようとする高巳たち。フェイクに全ての【白鯨】を食べさせてしまおうとする『セーブ・ザ・セーフ』と対立することになり、瞬の祖父代わりの宮じいこと宮田喜三郎や佳江の依頼も受けて、『セーブ・ザ・セーフ』との会談の場を持つ。
 真帆と高巳の言葉の遣り取りに、自分の過ちを気付かされる瞬。瞬が離れた、と感じた真帆は自暴自棄になって、瞬の代わりにフェイクに命令を放つ。「全ての【白鯨】を捕食しろ」と。だが、【白鯨】側も学習していた。もうフェイクに吸収はされない。ならば、とフェイクは自分を含めた生物の消滅を願う。…

 この頃はあまりギャグが入ってないんですね。佳江ちゃんの押しの強さがくすっと笑える程度、結構正統派。【白鯨】との会話が何だかもたついて読みにくかったですが(【白鯨】側の持つ概念がどうの、と言う意味で読みにくいんじゃないと思う)、でも面白かったです。瞬が佳江への恋心を漸く自覚する所とか凄く切ない。真帆の動機については薄いかなと思いつつ、彼女には実践してしまえるだけの頭脳と行動力があってしまったのね、と言うことで。フェイクが真帆の命令に従い、自身の消滅を望む辺りは涙ぐんでしまいました。作風として【白鯨】を殺すことはないだろう、と思いつつも「…こういうラストもありだなぁ」「でも【白鯨】の死体があの高度から落ちてきたら、もの凄い被害では…;」とか色々考えました。
 【白鯨】にしろフェイクにしろ、寿命は人間よりずっと長いだろうに、瞬や高巳に頼っていいのかなぁとも思ったなぁ。契約みたいなものを結べはしたけれど、ちゃんと恒久的に守って行けるだろうか。
 光稀ちゃんが後半、あまり活躍しなかったのが少し残念。とか言いながら、ラスト高巳との告白シーンではにやにやしちゃったんですけどね。
 宮じいがとにかくお見事でした。