読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

廃帝綺譚 宇月原晴明著 中央公論新社 2007年

 中国・日本それぞれの王朝最後の皇帝にまつわる伝奇短編集。
 マルコ・ポーロがひとすくい持ち帰った水蛭子神の肉片・真床追衾のその後。
 ネタばれ、してることになると思います、すみません;

 北帰茫茫――――元朝
 大元大モンゴル国の第十一代皇帝はトゴン・テムル。諸部族の勢力争いの結果、在位53日で死んだ弟に次いで皇帝の座に座ったのは14歳の時。辺境の地から呼び戻されての即位だった。宰相バヤンは各地で起きる反乱を止めようと漢人の大虐殺を献策する。漢人の文化を愛するトゴンには到底承諾できない。意向を汲んで近臣トクトがバヤンを失脚させる。ようやく来るかと思われたトゴンの治世で、実際に辣腕を振るったのはトクトだった。自分の存在意義に疑問を持つトゴン。西蔵密宗の秘伝にかぶれてまで民衆の蜂起を抑えようとするが叶わず、「衰朝の暗君」と後ろ指さされる。皇帝としての自分を確認するためだけにトクトを解任、思いがけず死に追いやってしまう。有能な臣下を失ってますます政務から遠ざかり、宮城の奥深くに閉じ篭る皇帝。いよいよ元王朝最後の時を知り、昔マルコ・ポーロから祖・クビライに献上された『驚異の書』と渾沌の玉を漢民族の王に託して、モンゴリアの草原に去る。 

 南海彷徨――――明初篇
 大明帝国第三皇帝朱棣の時代。前皇帝である心優しい甥・朱允炆を好ましく思いながらも、儒臣たちの陰謀で允炆と戦わねばならなかった朱棣。ようやく見つけた允炆の遺体は、渾沌の玉の神力に包まれ護られていた。愛する甥を葬るため、朱棣は忠臣・鄭和に渾沌の島を見つけるよう、大船団を任せる。26年後、棺は朱棣の分も加わり二つに増えた。鄭和は未だ渾沌の島を見つけられぬまま、最後の旅に出る。『驚異の書』と渾沌の玉を徒弟に託して…。

 禁城落陽――――明末篇
 大明帝国第十七代皇帝・崇禎帝朱由検の時代。宦官たちの専横のためがたがたになってしまった帝国を立て直そうとするが、侵攻を繰り返す北狄、度重なる重税に耐えかねた農民の離脱にそれもままならない。帝都北京に攻め込んでくる李自成軍を前に、重臣たちは寝返るばかり。臣下を誰も信じられない崇禎帝は幼い息子たちを逃がした後、存在を知ったばかりの渾沌の玉を長平公主に手渡し、愛娘の身を護るよう祈る。だが玉に神変は起きない。絶望した崇禎帝は、暴徒に辱めを受けるよりはと長平公主を手にかけ、自らも縊り死ぬ。左腕を落とされた公主は、ようやくその力を発揮した渾沌の玉により生き延びる。

 大海絶歌――――隠岐
 海に沈んだ兄・安徳天皇と共に神器・草薙の剣と真床追衾が失われて以来、後鳥羽院は自分が真の帝と言えるのかと言う疑問を抱き続けて来た。身を護る神器を失った天皇。意匠を凝らした太刀を誂え、実朝の死後は鎌倉幕府に反旗をひるがえしたものの、あっと言う間に北条義時・泰時親子に敗れる。隠岐に流された院の元に、ある日、小珠『淡島』が届く。水蛭子の弟皇子と言われ、親王の護りとして兄宮・守貞親王が密かに持っていた神珠。院はその中に荒ぶる海と兄宮安徳天皇、あんなにまで呪った源実朝の姿を見る。天下の歌人として実朝の歌に返じたい院。小珠に導かれ、隠岐の荒波の中、大海の歌を得る。…

 『安徳天皇漂海記』の続編と言うか後日譚と言うか。最終話なんかは、前作読んでないと解らないんじゃないかな。
 自分が朝最後の皇帝であること、その無力さや孤独を痛感する。あがいてもあがいても事態は悪くなるばかり。明初篇は勢いのある話の筈なんですが、それでも帝になってしまった哀しさが先に来る。
 面白かったんですが、でもやっぱり『安徳天皇漂海記』の方が読みやすくて好きだなぁ。また「こちらに教養が必要なお話」になってしまった感じでした。…だから、こっちにその知識がないのが悪いんですけどね(笑)。