本にまつわる短編集。
ネタばれになってるかも、すみません;
ハンノキのある島で
世界中で「読書法」が施行された世界。新刊の寿命は六年、よほどの名作と万人に認められない限り、廃棄されてしまう世界。作家の久子は、とある人物を訪ねて町中を歩く。自分の境遇を振り返り、十年しか保たない自作を持ちながら。
バベルより遠く離れて
南チナ語という超マイナーな言葉の翻訳家である泰。南チナの名作をどう訳するか頭を悩ませている泰の前に、トゥーッカ・ヴィルタネンと名乗る老人が現れた。彼は日本語の言霊で不老不死の呪いをかけられてしまったと言う。それを解くために日本語を勉強していると。
木曜日のルリユール
文芸評論家の森祐樹は、ある日、本屋で『木曜日のルリユール』という本を見かける。作者は一之森樹、それはかつて学生だった自分が書いた小説だった。誰かが盗用したのか、でもどうやって当時の作品を手に入れた、しかもおそらく一字一句違いがない。祐樹はその頃自分がいたアパートを訪ねる。果たしてそこには、若かりし頃の自分がいた。
詩人になれますように
祖母は薄青い勾玉を、願い事をふたつ叶えてくれるのだと詠美にくれた。詠美はその石に、詩人になれますようにと願った。果たして、詠美は高校生にして詩集を出版し、その容姿も相まって一躍時の人になる。だが、それ以降は就職もうまくいかず、田舎の事務員をこなすだけの日々。そんな彼女を、ある日大学の後輩が訪ねてくる。詠美の元カレの名字を名乗り、ノンフィクション作家として詠美を取材したいと言って。
本の泉 泉の本
四郎は友人敬彦と共に古本屋を彷徨う。復刊されるべき隠れた名作を探している筈だったが、いつしか自分の欲望の走るままに渉猟する羽目に。敬彦は敬彦で、とある本を探しているという。
プロローグ、エピローグでダブルクリップの話。…
こういう話の場合、どうしても作者自身の環境と重ねてしまう。『ハンノキの~』の久子の境遇、数年前ある大きな公募賞を受賞したとか、プロのくせに応募するなんてと陰口を叩かれたとか、『本の泉~』の アンソロジーを編むつもりで寄った古本屋でテンションが上がってしまうくだりとか。
『ハンノキ~』の、作る側も受け取る側も、溢れるデータにあっぷあっぷになってしまう状況は、本当に身に沁みました。新刊を追う日々、たまには過去作も読み返したいけど、その意欲も薄れてしまう。「一度は見ておくべき過去の名作だけで、あなたの半生分の時間を超える」には深く頷いてしまいました。切り取り動画や解説動画が重宝される訳だよ。
どの作品も淡々と静謐。未来はあまり明るくなくて、すらすら読めるんだけど何だか辛い。
そうそう、『本の泉~』で紹介されてる本が、本当に面白そうでした。あれ、架空の作品ですよね、よくあれだけ思いつくとも(笑)。