読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

烏百花 白百合の章 阿部智里著 文藝春秋 2021年

 八咫烏シリーズ外伝。短編集。

 かれのおとない
 北領の茂丸の実家を訪れた雪哉。学生の頃からなじみだった彼が、茂丸の死後変わってしまったことを、茂丸の妹のみよしは感じていた。

 ふゆのことら
 北領の風巻郷長の三男坊 市柳は力を持て余して地元で暴れるまま、己の行き先を迷っていた。そんな折、垂氷郷の、同じく出来損ないの次男坊 雪哉が中央での宮仕えが決まったとの噂を聞いた。腹立ちまぎれに呟いた陰口「いずれ雪哉が垂氷の郷長になるんじゃないか」が、雪哉の逆鱗に触れた。

 ちはやのだんまり
 千早の妹 結が恋人を連れて来た。シンと名乗る男の風貌はいかにも破落戸で、明留から見ても好感は持てない。だがひょんなことから遣り合ううち、明留はシンを認める気になってきた。

 あきのあやぎぬ
 夫を亡くし、幼い子供と借金を背負って途方に暮れる環。そんな彼女に、西本家の次期当主 顕彦が声をかけてくる。他に方法はなく、側室に入る環。そこには年齢入り混じった18人の女が、先に側女として顕彦に仕えていた。彼女らの、絹をまとってはしゃぐ姿に、環は違和感を覚える。

 おにびさく
 西家のお膝元で鬼火灯籠を作る職人 登喜司は、師匠でもある養父を亡くしたばかり。腕はまだまだで、依頼も減ってきている。そんな時、皇后陛下 大紫の御前が美しい飾り灯籠を探して、腕比べが行われることになった。登喜司は創作のヒントを求めて、中央へ見学へ行く。

 なつのゆうばえ
 南家の姫として生まれた夕蝉は、いずれ皇后になるという自覚を持って、賢く冷静に育った。いざ嫁いだ若宮は凡庸で失望しかなく、では敬愛する父の為に、と気を持ち直したら、中途半端に賢い兄に父は謀殺されてしまう。徐々に傾いていくだろう実家で、夕蝉は弟が自分と同じ、人の上に立つよう育てられた種類の人であることを知る。

 はるのとこやみ
 伶と倫の双子の兄弟は東領、永日郷に生まれた。竜笛奏者として修業に励んでいる。師匠から俗楽と評されてしまう伶に対し、倫の笛の音はまさしく崇高。だがある日、若宮に輿入れする筈の少女 浮雲が奏でる長琴の音を聞いて合奏して以来、倫の音は堕ちてしまう。

 きんかんをにる
 奈月彦は娘に、金柑の蜜煮を教えていた。娘が、料理を教えて欲しいと言ったから。自分が作ったごはんなら、みな安心して食べられるだろうから、と。…

 雪哉の純粋な一面と、したたかで意地悪い一面が両方味わえる「かれのおとない」「ふゆのことら」。
 大紫の御前のバックボーンと、その頃の皇后争いの様子が垣間見える「なつのゆうばえ」「はるのとこやみ」。
 本編にはあまり関係ないエピソードたち、面白かったです。暗い話も多かったけど(苦笑;)。
 大紫の御前、なるほど根性座ってる訳だわ。ほぼ全員、見下してるんだもんなぁ。でもこれはこれでかっこよく見えてしまうのが「主人公の魔法」(©氷室冴子)なんでしょうね。いや、お近付きにはなりたくないです; いや、もう山内の狭い範囲でごちゃごちゃやってる場合じゃないんだけど、まだ知らないんですよね。
 浮雲と倫との間の子供は音楽の才能はやっぱり音楽の才に恵まれてるのかな、ちょっと行く末が知りたくなりました。

 さて、本編はどうなるのかな。救いはあるのかこのまま滅びるのか。