読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

東京ディストピア日記 桜庭一樹著 河出書房新社 2021年

作家・桜庭一樹が仔細に記録する2020年1月~2021年1月。分断が進むこの世界で、私は、あなたは、どこにいて何を思考する、誰なんだろう――?
オリンピック延期、和牛券、休業要請、#うちで踊ろう、Zoom飲み会、アベノマスク、ステイ・ホーム太り、自粛警察、極端な選択、2度目の緊急事態宣言……誰もが経験したはずなのにもう忘れている、あの時の暮らし、憤りや心細さ。日記を読み、時系列どおりに追体験すると、新たな気づきが次々に見えてくる。すべて現実に起きたこと。コロナ禍の一年間。

 偶然 桜庭作品が続きました。
 エッセイではなく小説に分類されていて、あれ?って感じだったのですが、後半から時間感覚というか虚と実が曖昧になる記述があって、そうか、私小説になるのかな?と思ったり。恩田さんもこんな形式の作品書いてらっしゃいましたよね。

 いやこれ、凄い作品だと思いました。国内のこと、世界的なこと、桜庭さん個人的なことを区別なく並列されて、よくこんなに分け隔てなく記録をつけてたなぁと感心しきり。私は、もう既にその頃の価値観というか世間の雰囲気を忘れていて、「あったなぁ、そんなこと!」「そんな感じだった!」と思い出すことさえ新鮮で。反対に、「東京そんなことになってたの??」と驚きもしましたし。
 桜庭さん、東東京に住むようになって、と書評集でもちらっと触れてらっしゃいましたね、池波正太郎のエッセイを紹介された時に。下町風情の残る、いい雰囲気の町だった筈なのに、治安も悪くなっていく。桜庭さんは身を守るためにも、迷彩のキャップに黒のマスク、サングラスをかけるように。
 周囲が荒んでいっていると思いきや、自分にもストレスが溜まっていたことに気付き、そしたら自分の感覚が過敏になっていただけなのか、と自分の中の判断基準が揺らいでいく。人に親切にする余裕がなくなっている自分に気付くことも。これ怖いなぁ、常に自分を疑うことになる。
 そんな中でも、理不尽な目にあったことを信じて貰えない取材相手への毅然とした態度には、頑張ったねぇ、うんうん、と心の中でエールを送ってしまいました。取材相手が男性だったのか女性だったのか気になるなぁ。本書の内容の中で"ビリーブ・ウィメン”にまで言及されてたのに、どこ読んでたんだろう、その人。

 これ、また続きを出して欲しいです。来年、2021年の記録をつけたものを。この一年で価値観がぶれたことに改めて気づかされました。