読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

月ノ森の真弓子 勝山海百合著 イースト・プレス 2014年

 大切なものを失くした二人・駿矢と姪の真弓子は招かれ、山に帰ることを決めた。岩手と宮城の狭間に秘かに存在する「月ノ森」へ――。
 この地で湧水「命迦泉」の番を始めた二人は、様々なものと巡り逢う。人と、人にあらざる者と……。
 中国をはじめアジア各地の神仙、怪異譚や幽霊話を手掛けてきた著者が、初めて出身地・東北を舞台に紡いだ再生物語。                          (紹介文より)


 東京が海に沈んでしまった近未来。
 駿矢は姪の真弓子と共に、叔母の普賢堂和香菜を訪ねた。普賢堂家の離れに住み、この地に湧く水「命迦泉」の番を始める二人。そこには水を求めて、様々な人が訪れた。長く引き籠った後、カレー作りに精を出す星春海、その母親で植物の蔓などで籠を編む冬子先生、中国からの季節労働者で何かに「憑かれて」いるチュウさん、労働者の環境の視察官でチュウさんの「憑き」の原因を突き止めた沈小霞。
 真弓子の通う学校には真弓子の心の傷を言い当てる少女がおり、春海の幼馴染みの咲麗はDVの夫から逃れる資金集めのため、代理出産をしている。和香菜の舅・哲治郎は肺炎が長引いて入院していて、外泊時に和香菜のつくったぼた餅を食べるのを楽しみにしている。津波から助かって以来、ぼた餅は哲治郎にとって特別な食べ物になった。
 盂蘭盆会の日、真弓子は姉の弓弦子と喧嘩して、入山を禁じられていた月ノ森に入ってしまう。姿の見えなくなった姪を、駿矢は真弓子の父親で兄の一矢と、和香菜の息子の武流と共に探しに走る。…


 不思議がそこに「ある」世界。現実と当たり前に混じり合う。
 その中に妙にリアリティのあるエピソードも入り込んでいて、哲治郎が津波にあった後、二日間歩き通して我が家に帰り着いた話なんかは、誰かの実際の経験談なんだろうか、と胸がつかれる思いがしました。この作者もあの災害で、決して変わることのない筈だった何かが変わった人なんだろうか。
 人が力を取り戻すのに、美味しい食べ物というのは重要な要素の一つなんだろうな、と改めて思いましたよ。