読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ビタミンF 重松清著 新潮社 2000年

 Family,Father,Friend,Fight,Fragile,Fortune……〈F〉で始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして埋め込んだ短編集。

『ゲンコツ』:階下のマンションに住む中学生が、父親に暴力を振るったらしい。駅前にたむろする若者を、見て見ぬ振りしかできない加藤雅夫。今は小学生の息子二人と自分とを、四年後の姿として重ねあわせる。夜中、自動販売機に悪戯している少年たちを見て、雅夫はゲンコツを握り締める。

『はずれくじ』:妻の入院で、中学一年生の息子・勇輝と二人暮らしをすることになった修一。妻の評する「優しい」息子を、どうしても「頼りない」と感じてしまう。先輩連中から息子が使いっ走りをさせられていることを知り、その思いは余計に募る。修一は、都会へ出ると言う自分を黙って認めてくれた父に思いを馳せる。宝くじを一枚ずつ買いながら、父は何を思っていたのだろう。

『パンドラ』:中学二年の娘・奈穂美が万引きした。フリーターの彼氏に影響されたらしい。今までいるとも思っていなかった娘の彼氏の存在を認識し、イライラが募る孝夫。妙に落ち着いた態度の妻も腹立たしく、禁煙も続かない。自分の最初の恋人を思い出し、妻の過去の恋人まで詮索してしまう。娘に不器用に思いを語った翌日、孝夫はまだ幼い息子を連れて遊びに出かける。

『セッちゃん』:この頃、中学二年の娘・加奈子の口から、クラスメイトの「セッちゃん」の話がよく出るようになった。どうやらセッちゃんはいじめにあっているらしい。やがて、実際いじめにあっていたのは娘自身だったことが分かる。だが、プライドの高い加奈子はそれを認めようとしない。「いい子」である加奈子には落ち度そのものが無く、処置の仕様も無い状態。父・雄介は身代わり雛を買い求め、加奈子に渡す。
 …これは胸の痛い話でした。「『いじめをやめろ』とは言えるけど、『嫌いになるな』なんて言えない」、「同情とかって、ほんとは残酷なんだ」。…十二国記でも似たような記述あったよなぁ。加奈子ちゃんがぽきっと折れてしまわないことを願ってしまう。

『なぎさホテルにて』:妻・娘・息子と四人で「なぎさホテル」に来た岡村達也。妻との間は冷め切っていて、小学二年の息子が気を回している状態。達也は17年前、当時の恋人・有希枝と「なぎさホテル」に泊まったことがあった。その時のホテルのサービスで、17年後の自分に有希枝からの手紙が届く。さらにもう一通、ホテルの部屋へも…。
 …これ、結局、寄り戻るのかなぁ。だとしたら奥さん、相当心広いぞ;

『かさぶたまぶた』:小学六年生の娘・優香の様子がおかしい。ふさぎ込む様子が只事ではない。原因となった聾学校での出来事を、「お父さんには言わないで」と言ったという娘の言葉、呑気で明るい性格だと思っていた息子・秀明の意外な一面を見せつけられ、完璧であろうとした父・政彦はショックを受ける。

『母帰る』:十年前、母が家を出た。「僕」と妻が結婚した年だった。それ以来母と一緒に暮らしていた男が亡くなり、父親はまた母に同居を持ち掛ける。反対する姉、どう反応したら分からない自分。故郷に帰る飛行機の中、姉の離婚した夫と偶然出会った僕は、彼の「家庭とは出ていきたい場所だ」と言う言葉を認める。…

 重松清さんの作品を読むのは初めてです。
 読んでみたかった『流星ワゴン』がなかなか回ってこなさそうなので、阿刀田高氏も誉めていた短編集を手に取りました。
 作品の裏に「重松さん」自身が透けて見える気がする。奥さんがいてお子さんが二人なんだろうな、田舎から都会へ出て来て、その時お父さんは何も言わずに許してくれたんだろうなぁって。
 切なくもあったけど、読後感のいい作品ばかりでした。