読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

王とサーカス 米澤穂信著 東京創元社 2015年

 ネタばれになってるかも、すみません;

 2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年サガルにガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始、宿の女主人の伝手を頼り、ネパール軍ラジェスワル准将へインタビューの約束を取り付けた。
 廃ビルのクラブ跡で落ち合ったが、ラジェスワル准将は取材を拒否。この国をサーカスに、見世物にする気はない、と。翻って万智に、報道とは何かと問いを投げかける。そしてその翌日、彼は銃殺体で発見された。路地裏で、上半身裸で、背中に「INFORMER(密告者)」と刻まれて。
 「この男は、わたしと会ったために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩を抱えながら、万智は真相究明に奔走する。二人の現地の警官と共に真の殺害現場を探し出し、凶器の銃を発見、それは万智と同じ宿に泊まっているアメリカ人が護身用に持っていたものだった。彼はその銃は盗まれた、と証言する。
 戒厳令下で人々の行動は制限されている。ラジェスワル准将に大麻密売の容疑がかかっていたことを知った万智は、一人の人物に目を向けた。…
             (折り返しの紹介文に付け足しました)

 『さよなら妖精』の続編的なものらしいのですが、私そっちを読んでないですね(苦笑;)。まぁ内容としては独立してたのでよかった、よかった。
 宣伝文句に勝手に騙されて、「え、ネパール王宮の事件の真相に迫るの!?」と思い違いをしてました。…うん、そんな筈ないよね。
 雰囲気が何かに似てるなぁと思ったら、そう、『折れた竜骨』だ。同じ作者なんで当たり前なんですが、これまで米澤さんの作品に共通した個性、ってあまり感じてなかったので意外でした。
 一種のクローズドサークルものと言うか、登場人物が限られるので「この中の誰か」が犯人であることは間違いなく、そうすると書き込み具合も相まって、「誰か」は察せられてしまいはします。八津田さんが仏像出した段階で「あれ、これはあかんヤツでは…」と思ったし、後々准将が密売人に関わってる、って記載も出てくるし。「摘んで売る」って表現には、そんなお手軽なんだ 凄ぇな、と素直に思いました。
 でも多分、本当のどんでん返しはそれからなんだよな。サガルのジャーナリズムに対する敵意。万智のやりきれなさ、「普賢岳のタクシーの運転手」のような直接的なものではないけれど、報道により巻き込まれ、ダメージを負わされるものの存在。それでも伝えるのか、意義はあるのか、そこまで背負う覚悟を自覚しているのか。
 なかなか重い作品でした。