読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

隠居すごろく 西條奈加著 角川書店 2019年

 巣鴨で六代続く糸問屋の嶋屋。店主の徳兵衛は、三十三年の働きに終止符を打ち、還暦を機に隠居生活に入った。人生を双六にたとえれば、隠居は「上がり」のようなもの。だがそのはずが、孫の千代太が隠居家に訪れたことで、予想外に忙しい日々が始まった!

 犬猫は拾ってくる、貧しい兄妹・勘七とおなつを連れて来て食事をふるまう。優しい心持の千代太の行動は時に相手のプライドを傷つけ、徳兵衛のポリシーに相反する。徳兵衛が亭主に去られて酒に溺れていた勘七・おなつの母親に、組紐職人としての復帰の道をつけてやれば、千代太は別の子供の母親に、「祖父が仕事の世話をする」と安請け合いしてしまう。

 いらつき、怒鳴りつけながら、徳兵衛はそれを放っておけない。できないことはできないと千代太を諭し、千代太の思い上がりや責任の取り方を考えさせ、自身も新たな商売の起動について思いを巡らせる。王子権現の参詣案内をして日銭を稼いでいた子供たちが大人に客を奪われたと聞いて、新たなアイデアを絞り出せ、と縁起芝居の披露を思い付かせる。様々な立場の人との出会いは、徳兵衛の凝り固まった価値観をほぐし、今までの自分の行動を見直す切っ掛けとなった。そつはないが愛想もないと苦手意識を持っていた妻お登勢との関係も、そういう態度を取らせるようにしてしまった自分に思い当たる。

 子供に客を取られた破落戸の腹いせや安泰と思われていた長男の失態、小石川からの火事。数々の「厄介事」に、徳兵衛はてんてこまいの日々を送る。果たして「第二の双六」の上がりとは?

                (帯文に付け足しました)

 

 西條さん、職人ものやっぱり上手いなぁ。今回は組紐でしたね。この時代は帯締めが必需品じゃなかった、ってことは帯の結び方はお太鼓じゃなかったのね。

 面白かったです。流通の方まで工夫を考える楽しさ。高田郁さんの『あきない世傳』にも繋がるような、でもあちらには蚕から糸を取る時の臭いとかには触れられてなかったよなぁ。

 徳兵衛の、一本筋が通った性格も好感が持てました。お登勢への若い頃の仕打ちとかは本気で眉を潜めましたし、そりゃあの性格に付き合うの大変だろうけど、情に流されず解決策を模索する姿勢とか。「吝嗇を恥と思わない」ってのも。畠中恵さんの『しゃばけ』シリーズの若旦那なんか、気前がいいのはいいんだけど、稼いでるのは若旦那じゃないのに、って思うことありますから。

 やろうと思えばシリーズ化できる設定だったと思うんですよ。隠居した徳兵衛に次々と厄介ごとが持ち込まれて、それを解決していく、みたいな。でも欲張らずこの話だけに絞った潔さ。まぁ亡くなるまで12年あったそうなので、その間のエピソードとして付け加えていくことも可能と言えば可能なんですが、それはできればしないでほしいなぁ。