読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

厨師、怪しい鍋と旅をする 勝山海百合著 東京創元社 2018年

 連作短編集。

 優れた厨師を輩出することで有名な斉家村に生まれた見習い料理人・斉鎌(さいれん)は、ある日茸を採りに入った山で、桃源の李と名乗る見知らぬ男から、不思議な鍋を借り受ける。しかしそれは煮炊きをしないでいると腹を空かして動物や人間を襲い始める、とんでもない鍋であった。
 鍋を返すまで故郷に帰ることは叶わない――流浪の身となった斉鎌は、鍋と村に代々伝わる霊力を持った包丁を頼りに、戦場の飯炊き場、もののけの棲み家、名家の隠居所などで腕を揮いつつ、鍋の元の主を捜し歩くが…。
 若き厨師と怪しい鍋が旅の途上で出会う人々と不思議、そして料理。無類の面白さに満ちた美食中華幻想譚!                                    (折り返し紹介文より)

 戦場の厨師
戦場にて800人分の飯を作る斉鎌。前線だが、鍋の腹を満たすには丁度いい。敵の兵隊が投降する条件として、300人分の饅頭を作れと命じられた斉鎌は、鍋の力を借りて饅頭600個を蒸しあげてさっさと戦場を後にする。斉鎌の腕を惜しむ魏将軍の元を、鳥を連れた官僚が訪れた。宮中から盗まれた宝物を探しているという。

 湖州の粥
一族の伝手を辿って、斉鎌は湖州の簡家へ。だが空家になっているようだ。とりあえず一晩、と中に入ってうつらうつらしていると、斉鎌を呼ぶ人々がいる。引っ越しした後を護る使用人たちとかで、一晩かけて魚翅を煮るという。やがてやってくる不審な気配、かまど番をかって出る斉鎌の、懐の包丁が鳴る。

 鳳嘴苑
蘇州の藩崖隣は鳥迷、ご禁制の青い鳥を飼っている。見目は美しいが鳴き声を上げない。世話しているのは同じく鳥好きの少女琳泳、尾長鳥の死を哀しむ彼女に、斉鎌は「良い出汁が出る」と言ってしまう頓珍漢っぷり。ある日、宝物を探しに現れた使者が連れて来た鳥が、青い鳥と鳴きかわした。

 石棺いっぱいの蜜
少年と老人の二人連れ、少年は即身蜜という妙薬を持っているという。老人が即身蜜になるための資金がほしい、とスポンサーを探すがそう上手くはいかないらしい。

 古家の怪
嵐の夜、斉鎌は泊めて貰った家ですいとんを作った。だがその家の夫婦に鍋を奪われてしまう。ようよう逃げ出した村で、三人の老人に救われた斉鎌。ようやく鍋の厄介払いができたかと思いきや、次の勤め先で返されて来た。天から降ってくるという状態で。

 孫氏令嬢誘拐事件
竹林で争う二人の男。仲間割れの末、同士討ちになったらしい。傍の竹籠の中にいたのは幼女、どうやら両家良家の子女が誘拐されたようだ。厄介ごとには巻き込まれたくないが、見捨ててもおけない。果たして、彼女を探す家人は斉鎌を誤解した。

 川神への供物
かつて共に修行した仲の斉鈞を手伝って、斉鎌は川の神への祭の料理を作っている。供物は若い娘、だが斉鈞は彼女を助けたいという。代わりに花嫁衣装を着て鍋を抱えて川に入った斉鎌は、そこで川の神に会う。

 黒糖と胡桃
斉鈞と共に次の勤め先へ。身体を壊して隠居した主人曹馳亮には、心から敬愛する親友がいる。彼 段志調はある日、曹馳亮の元へさる高貴な人を連れて来る、と言ってよこした。はっきりとは明かされない身分、毒見役の男までついてくる来るような立場の人物らしい。

 再会の木蘭
とある寺で饅頭を売る屋台を出していた斉鎌。魏将軍と、鍋を借りた人物桃源の李と再会する。

 乳の味
鍋と別れた斉鎌は、魏将軍に招かれて、魏の好物炙り鳩肉の調理法を伝授する。思い出すのは鳥飼の琳泳のこと、藩崖隣の屋敷を訪れるが、琳泳はもうそこにはいないとのこと。琳泳は実家に戻っていた。義姉の嘉艶の妹・嘉扇の子供の夜泣きに効力があると、尾長鳥の剥製を貸すことになる。 

 紅鶴楼縁起
琳泳の結婚相手の条件は、鳳凰を捕まえた人、もしくは鳥肉を使わない鳥料理を食べさせてくれた人。見世物小屋鳳凰が見られる、と噂を聞いた琳泳は成唐街へ赴く。…


 怪異譚、になるのかな。色々詰めあわされた感じで面白かったです。おっとりと品がいい、多少残酷なんだけど後味は悪くない。出てくる食べ物もとにかく美味しそう。ただ、文章が分かりにくい所があってですね、あれ、これどういう意味だ、と考えることしばしば。琳泳の境遇「生母は幼少時に去り、育ての母で兄の母は…」という表現に、ああ、そうか、奥さん複数いるのね、と気付くのに暫くかかりました(苦笑;)。いや、でも好きです、こういう話。
 解説が南條竹則さん。うん、さもありなん(笑)。でもあれ、解説かなぁ(笑)。