読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

小萩のかんざし いとま申して3 北村薫著 文藝春秋 2018年

 作家・北村薫が、父の死後に遺されていた膨大な日記を考証、再生。
 ミステリ作家・本の達人としての腕を存分に振るいつつ、無名の一青年の目を通した昭和初期の歴史的シーンを繊細に愛情深く甦らせた三部作の完結編。

 ドイツではヒトラー内閣が成立し、三月には東北三陸地方に大津波が押し寄せた昭和8年、父は慶応義塾大学を卒業するが、不景気の波が押し寄せる時代に就職口はない。文春の試験にも不合格し(池島信平が合格)、大学院に進むものの家の経済は苦しく、定期を買う金もない。崇拝する折口信夫から満足な評価を得る事もできず、国文学への情熱も断ち切るしかないのかと懊悩しながら東京、横浜をさまよう父の姿が哀切をもって描き出される。
 一方、文学史上の有名人物と折口信夫が敵対し、罵倒批判された数々の事件の真相に迫る著者の筆はスリリングかつ感動的。時代の背景と状況を踏まえ、文献、日記、関係者の随筆に散見される該当箇所を読み解きつき合わせることで、折口信夫の底知れぬ大きさと怖さ、師弟関係に潜む感情、国文学に生涯をかける人々の熱情と嫉妬があぶりだされる。
 横山重佐佐木信綱池田弥三郎、祖父、父、学友たち――
 あの時代を歩んだ有名・無名の人々の姿を捉える、感動の昭和史。           (出版社HPより)


 この巻に関しては、「折口信夫伝」みたいになってる感じ。で、面白かったのですよ、というより圧倒されました。
 数々の証言を、それぞれの日記やら対談やら随筆を突き合わせて検証し、真実はどうだったのか推測する。著者の根気強さに脱帽。
 折口信夫ってこんな人だったんだ…! いや、「名前だけは知ってる」レベルの知識しかないんですが、それでも人格者であってほしかったな、とこっそり思いつつ(苦笑;)。

 本文内で名言されてませんが、折口信夫ってそちらの人だったのか?と汲み取れる箇所もあり、でもこれはある程度公然のことだったようで。でもその書き方も配慮が感じられて好感を持ちました。
 「万葉集」の呼び方から桂米朝さんの「はてなの茶碗」まで連想するのは北村さんならではな気がします。
 横山重の奥様への筆「可秘、可秘」(秘すべし、秘すべし。内緒、内緒。)の表記に、高橋留美子著『うる星やつら』の「剣呑、剣呑」を思い出しました。こういう表現、妙に可笑しい(笑)。
 戦争によって失われたもの、愛弟子しかり書籍しかり、勉学の機会も。昔の学生の教養、意欲って凄い。本当に勉強したい人が大学に行ってたんだなぁ。