読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ごんたくれ 西條奈加著 光文社 2015年

 二人の絵師を描いた長編。


 当代一の誉れ高い絵師・円山応挙の弟子・吉村胡雪こと彦太郎。その応挙の絵を絵図とこき下ろし、我こそ京随一の絵師と豪語する深山箏白こと豊蔵。彦太郎が豊蔵を殴りつけるという最悪の出会いから、会えば喧嘩の二人だが、絵師としては認め合い、それぞれ名声を高めながら数奇な人生を歩んでいく――。
 天才絵師をモデルに、鮮やかな筆致で描き出された表現者の矜持と苦悩、歓喜と孤独。
 いま時代小説界でもっとも注目を集める書き手のひとり、西條奈加の最新作!!
                                         (出版社HPより)

 
 深山筝白、本名豊蔵。幼い頃京都西陣の火災で紺屋の両親を喪い、一旦大坂の米屋に奉公に出されたがそこに馴染めず出奔。各地を放浪する間に、伊勢で砂絵師の木沢惣之助と出会う。惣之助は豊蔵の才能を認め、京都の画壇に豊蔵を紹介。その頃京都では、円山応挙を中心とする新しい波が生まれ始めていた。
 応挙の絵を魂の入っていない、ただ綺麗なだけの絵だと切って捨てる豊蔵。弟子の吉村胡雪こと彦太郎は、それを聞いてとても黙っていられない。ただ、即興絵を得意とする彦太郎の絵には、豊蔵も一目置く発言をする。二人して訪問することになった池大雅の庵で、彦太郎の描いた席画を見て、豊蔵は自分と彦太郎との因縁を自覚する。彦太郎はかつて、父と訪れた伊勢の地で、やはり洒落た即興画を描いてみせて、豊蔵の自信を粉々に打ち砕いていた。
 応挙の絵をなぞるだけでは自分の才能を殺してしまう、と彦太郎に忠告する豊蔵。だが、長男として祖父に猫かわいがりされた分、両親や弟との仲が気まずくなって結局家を出た彦太郎にとって、応挙や兄弟子の源琦は家族の代わりのような拠り所、とても離れられるものではない。自由奔放な「ごんたくれ」な性質、依頼主の妻を寝取ったりあまりにも依頼にあわない絵を描いたり、何度か破門になりながら、それでも最終的には応挙のもとに戻る、を繰り返す。スランプのたび豊蔵に活を入れられ傑作をものにする日々、だがやがて、同門の同輩からは疎まれる存在になってしまう。
 一方、豊蔵も各地を転々としながら絵の道を究める。だんだんに世に認められ、四条に店まで構えるようになった豊蔵に、ある日彦太郎の訃報が届く。残された遺品から、豊蔵は厳島神社を目指す。…



 TV番組「開運! なんでも鑑定団」でよく見かける数々のビッグネーム、円山応挙与謝蕪村池大雅伊藤若冲、呉春なんかが同時代の人、ってのは初めて知りました。すごいな、本当に才能ある人がこの頃の京都に固まってたんだなぁ。
 本作のモデルは参考文献によると、どうやら曽我蕭白長沢芦雪のようで。とかいいながら、名前だけでは代表作の絵が思い浮かばない教養のなさが恨めしい(苦笑;)。作風については、作中の説明で一応察しはつくんですが。でも、「あ、じゃあ以前『美の巨人』で紹介されてた竜の襖絵って芦雪が描いたんだったっけ」と調べてみたら蕭白だったり。…う~ん;;
 万人に喜ばれるものを、と思う職人気質の応挙、あくまで芸術家であろうとする豊蔵。本質は豊蔵に近いのに、絵でも人柄でも応挙に惹かれる彦太郎。対極にあったのは、応挙と豊蔵だったような…。
 ここまで実在の人物を出しておきながら、どうして主人公を架空にしたんだろう、というのはちょっと疑問でした。