読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

死神の浮力 伊坂幸太郎著 文藝春秋 2013年

 娘が殺された。相手は二十五人に一人の、良心を持たない人間。
 ――犯人を追う夫婦と、千葉の七日間                (帯文より)

 ネタばれというか、かなり詳しく粗筋書いてます、すみません;

 十歳になる一人娘が殺された。犯人は本城崇、だが証拠不十分で無罪となった。両親である山野辺遼・美樹夫妻は本城に復讐を果たすべく、計画を実行する。
 だが、順調には進まない。二人の行動を予期していたかのように逃げ回り、翻弄する本城。かえって山野辺夫妻は偽の情報に踊らされ、本城が雇ったチンピラに拉致される羽目になる。
 山野辺夫妻の行動を妨害することになったり、助けたりすることになるのが死神の千葉。彼は山野辺遼の担当で、彼が「可」を出せば山野辺遼は死ぬ。千葉は以前の仕事で、本城と関わりを持っていたことを思い出す。
 本城担当の死神・香川との情報交換もあり、本城が身を寄せているのは佐古という老人宅だと判明するが、やはりそこでも罠にはめられそうになる山野辺夫妻。ただ、何度もぎりぎりで回避するうち、本城からの煽りが表立って来る。
 山野辺馴染みの編集者を助けた後、夫妻と千葉は本城の待つ奥多摩に向かう。本城の狙いを阻止するために。…


 死神千葉、長編で再登場。
 いやぁ、はらはらしました。何しろ本城ってのが本当に嫌な奴で。山野辺夫妻に本懐を遂げて欲しいのに、するすると逃げて行く。しかもかえって夫妻の方が追い詰められて行くし。それでも本城にも死神が憑いているから、復讐は遂げられるのかなぁと思ってたら、香川『見送り』するし!
 刑務所に服役してとか植物状態での20年かしら、とか色々考えてたら、あんな風になるとはねぇ。何だかギリシャ神話の罰のよう、あの状況を山野辺夫妻が知ることができたら、少しは気持ちが晴れたかもしれないのに。いや、晴れたのは読者の心か。
 細かい伏線が繋がっていく展開は相変わらず、「なつみ饅頭」から間違った道路標識、菜摘ちゃんが考えた絵本や青酸カリの盗難、サイン会で出会った読者に「小説にすると陳腐な死に方」等々、やっぱり爽快です。山野辺の父親の、「先に行って、怖くないことを確かめてくるよ」には思わず泣きそうになりました。イヌイット族の「クンランゲタ」に対する処置「誰も観ていない時に、誰かがそいつを氷河のふちから突き落とす」には思わず目を見張りましたが(笑)。
 それにしても伊坂さん、マスコミに対して嫌なことがあったのかしら。『ガソリン生活』でも取材攻勢の酷さを書いてましたよね。