読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

夜の国のクーパー 伊坂幸太郎著 東京創元社 2012年

 ネタばれになってるかも、すみません;

 釣り船が転覆して、目覚めた時には草叢にいた。体は蔓で縛られて身動きが取れない状態、傍には一匹の猫。そして猫は語りはじめた。その猫の暮らしている国の話を。
 その国では8年前まで、毎年三人の若者を選んで「クーパー」退治に向かわせていた。クーパーとは杉の樹が変化した怪物。巨大な体で暴れまわり、周囲に害をなす。蛹から孵ったばかりの時期を見計らって、選ばれた三人と「複眼隊長」が谷底に落として退治する。8年前、国王の冠人がクーパーは二度と現れないと宣言し、クーパーの兵士は終わった。代わりに鉄国との戦争が始まった。でも日常は変わりなく進み、そして今、鉄国の兵士がこの国に来た。冠人は戦争に負けたのだと兵士を受け入れる。
 片目の隊長が冠人を殺した翌日、一人の兵士の死体が発見された。犯人として号豪が疑われる。号豪は否定するが、兵士達に連れて行かれる。やがて、号豪から名が上がったとして、兵士達は次に医医雄を、続いて弦を連行する。
 鼠と猫との関係、兵士と共に来た鼠の知恵によって鼠から出される奇妙な提案が、この国のクーパー退治の歴史と鉄国の関係に交錯する。この国が危機に陥ると、透明化したクーパーの兵士が助けに帰って来るのだとか。喋る猫・トムに、兵士を追い払って欲しい、と依頼される「私」。果たして、母国では平凡極まりない公務員の「私」にできるだろうか。…

 …面白かった。何て魅力的な話。
 デビュー作で案山子を喋らせた伊坂さん、今回は猫に語らせました。
 クーパーの伝説と鼠と猫の関係が重なりあって、そのしくみはぼんやり読者に判って来ます。ああ、厭な感じがするなぁと思っていたらその上で明かされる真相、黒金虫のくだりとか、結構危うい均衡の上に成り立つ経緯、伏線が掘り起こされ、最後に来るどんでん返し。これがルール違反だと思う人もいるかもしれない、でも私はありでした。
 何か主張したいことがあるようなないような、深読みしようと思えばいくらでも深読みできるし、何も考えずエンタテインメントとしても楽しめる。いいなぁ、この作品好き。
 そうそう、そう言えば灰色猫のトムが、なぜか私には黒猫のイメージがありました。…これは章が変わる度に描かれてる猫のシルエットのせいかもしれませんね。