読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

はむ・はたる 西條奈加著 光文社 2009年

 孤児たちが語る『烏金』その後の話、連作短編集。
 ネタばれあります、すみません;

 あやめ長屋の長治
 玄太が語る。
 同じ長屋に住む子供・長治は嫌な奴だ。元々集団で掏摸やかっぱらいをしていたおれたちを、まともに働くようになった今でも悪く言う。いい加減他の大人やなんかが無視するようになったのに、だ。
 そんな長治が行方不明になった。朝方喧嘩したこともあって、疑いはおれたちにかかる。濡れ衣を晴らそうとみんなで聞き込みに回っていると、長治がこの頃武家屋敷に勤める女性と会っていたことが分かる。跡継ぎ争いに巻き込まれたのではないか、と兄貴分の勝平が推測する。

 猫神さま
 三治が語る。
 長谷部様の次男坊・柾様が帰ってきた。ふらふら国中を旅をしていたが、少し腰を落ち着けると言う。特技の似顔絵で日銭を稼ぐ柾と三治は、働いている繭屋で店の守り神・猫神さまの盗みの疑いをかけられたと言う一人の少女と出会う。父親が盗みを働いたばかりに背負わされる境遇を、自分と重ね合わせる三治。話を聞いた勝平は、その店の幼い坊ちゃんが怪しいと睨む。
 
 百両の壺
 お吟の下で働く天平が語る。
 金貸しお吟の客・鰻屋あさ乃の娘が武家屋敷に奉公に出て、高価な壺を割ってしまったらしい。百両の弁償を迫られているが、聞けばあちこちで同じような被害にあっている町人がいるとか。長谷部家の跡取り息子・佐一郎が義憤にかられて暴走するのを、勝平が止める。

 子持稲荷
 登美が語る。
 小さい子の面倒を見ている登美が、仕出し屋・蓬莱屋の倅、由次郎と出会った。甘やかされて育った由次郎は、継母が来て以来厳しくしつけられて文句たらたら。やがて継母が博打打に強請られていることに気づく。そんな女を店に置いてはおけないと言う由次郎の目は、まともに事態を見てはいない。登美に話を聞いた勝平が強請りの種に気が付く。

 花童
 伊根が語る。
 伊根はハチが好きだ。役者のように美しい顔立ちをしたハチは、その美貌のため悲惨な目にあってきた。今ではほとんど口をきかず、妹で唖の、花の面倒をみることを唯一の生きがいにしている。言葉を喋れない花は、実は誰よりも頭がよかった。だがそのことに気付いたのは伊根だけ、しかも花がハチを独占している嫉妬から、周りには何も言っていない。そのうち花が行方不明になる。半狂乱で探すハチを見て激しく後悔する伊根。同じころ姿が見えなくなった町医者の御内儀の噂を聞いて、勝平は花が巻き込まれた事件を察する。

 はむ・はたる
 勝平が語る。
 医者の御内儀の情報から、柾が尋ね歩いていた男女の居場所が分かった。女の名はお蘭、柾の剣術の師匠の後添いにまんまと収まった挙句、財産一切を食い潰して師匠を死に追いやり、兄弟子の相良と逃げていた。胸を病んで、今また江戸に戻っていたらしい。仇討は師匠の身内しか認められず、柾がお蘭たちを殺せばそれは罪となる。思い止まらせたくて勝平はお蘭の元を訪ねるが、それはかえって柾にお蘭の居場所を教えることになった。…

 読み始めて、『烏金』と同じ世界だ、と気付いた時にはちょっとわくわくしました。…でも、シリーズものにする必要あったのかなぁ、とも思ったり。
 するすると読めました。面白かったんだ、面白かったんだけどね、悪い言い方すると可もなく不可もなく、って感じがしないでもない。
 例えば、一話一話語り手が違うという構成にしても、違うのはその境遇くらいで、いまいち語り手の個性が見えてこない。必ず出てくる勝平や柾に対するスタンスも、どの子供も変わらない感じ。…この作家さん、「こうする必要あったのかな」とちょっと首をかしげることをするなぁ。
 面白かったし安心して人にも勧められる、のに手放しでは褒められない、何だか妙な読後感でした。
 …いや、本当に面白かったんですよ;