読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

草祭 恒川光太郎著 新潮社 2008年

 美奥と言う場所を舞台にした連作短編集。
 ネタばれになるのかな、なるかもな、すみません;

けものはら:
 同級生の椎野春がいなくなった。中学三年の雅也は、昔、春と二人で訪れた水路奥の野原を思い出す。注連縄が張られ、廃屋のある不思議な空間。果たして、春はそこにいた。訪れるたび毛深くなって行く春は、小さい頃この場所で母に殺されかけたこと、自分達を残して家を出て行った後また帰って来た母を誘いここを訪ね、母を殺したことを語る。この場所で春は、この世界のものではないものに変容していくようだ。

屋根猩猩
 美奥の尾根崎地区には、屋根の上に猩猩を飾る古い風習が残っている。
 17歳の藤岡美和は屋根の上を自由に行き来する少年タカヒロに会う。学校にも行っていない彼は、この地区の守り神に選ばれたのだと言う。世話役のようなことをしているとか。以前美和が書いたノートを拾い、美和に注目していたと言うタカヒロは、困ったことがあったら解決してやると言い出す。頼みもしないのに、美和を悪質にからかっていた三人の同級生を懲らしめ、仲直りさせてしまう。

くさのゆめがたり:
 遥か昔の話。
 誤って叔父を毒殺してしまったテンは言葉を失う。一人になったテンは旅の僧侶リンドウに救われ、彼の故郷・春沢に引き取られる。リンドウの娘・絹代に母親を感じ、恋をするテン。幸せな日々はしばらく続いたが、ある日、山賊に襲われていた娘を助けたことから、逆恨みにあい、絹代とその娘・花梨を攫われる。叔父から受け継いだ薬草・毒草の知識で山賊の隠れ家から二人を助けようとするが間に合わず、絹代は既に死んでいた。彼女の死体を抱え、テンは幻の花・オロチバナを使って生死を超越した秘薬クサナギを作ろうとする。

天化の宿:
 望月ゆうかは森の奥で双子の少年に出会う。タッペイ、コウヘイと名乗る二人はゆうかに「クトキをしに来たのか?」と問う。クトキ――苦解きをするには精霊盤と呼ばれる盤を使って「天化」というゲームをするのだとか。複雑なゲームに夢中になりながら、それまでのことを思い出すゆうか。一時通っていたバイオリン教室で出会った少年に淡い恋心を抱き、彼に会わせると言う登校拒否児の少女・アミに出会い、「空を飛べる」と言う彼女を一人公園に置いて別れ、アミはそのまま凍死し――。このまま「天化」を進め、苦解きを続けたら、自分はどうなるのか。

朝の朧町:
 7年前、私・浦崎香奈枝は長船さんと暮らしていた。美奥出身の彼は自分だけの幻の町を持っている。不思議に懐かしいこの町で出会う人は、長船さんに連れて来られた人もいれば、香奈枝がもう忘れてしまった人、忘れたい人もいる。浮気症で友人の妻にまで手を出した夫、その夫にたまりかねて暴力をふるい、殺してしまった友人。その裁判で自分まで弾劾された過去。長船さんが亡くなって徐々に町が崩壊していく中、かつて長船さんが語っていた化け物「のらぬら」が現れる。精神的に追い詰められる香奈枝。蔵の中の液体を飲んだら逃れられるだろうか。…

 恒川さんの新作。
 相変わらずの恒川ワールド。やっぱり好き。
 初めて好きになった相手の死体をかき抱いて、甦りの薬を調合しようとするテン。クトキで全ての苦を無くそうとするゆうか。結局それは無理なんだけど、でもどの話も軽い諦めの後、哀しいだけでは終わらない。みんなどこかほの明るくて前向き、救いがあるラストで読んでて心地いい。
 「天化」はちょっとやってみたいなぁ。お地蔵様になるのはまだちょっとイヤだけど(笑)。