読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

スウィングしなけりゃ意味がない 佐藤亜紀著 角川書店 2017年

 1940年代、ナチス政権下のドイツ。
 金もあるし、暇もある。
 無敵の悪ガキどもが、夢中になったのは敵性音楽のジャズだった――!      (帯文より)

 1939年ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。軍需会社経営者である父を持つ15歳の少年エディは享楽的な毎日を送っていた。戦争に行く気はないし、兵役を逃れる手段もある。ブルジョワと呼ばれるエディと仲間たちが夢中なのは、“スウィング(ジャズ)”だ。敵性音楽だが、なじみのカフェに行けば、お望みの音に浸ることができる。ここでは歌い踊り、全身が痺れるような音と、天才的な即興に驚嘆することがすべて。ゲシュタポの手入れからの脱走もお手のものだ。だって、ヒトラーユーゲントのスパイ、クーもあまりの楽しさに陥落し、ゲシュタポ踏み込みの目安になる有様だもの。
 絶品のピアノの腕を持つマックスは1/8ユダヤ人。師匠のレンク教授と共にジャズの分析に余念がない。アディはまるで愛想のない、不細工な女の子だがクラリネットは最高にデキる。
 だが、そんな永遠に思える日々にも戦争が不穏な影を色濃く落としはじめた。マックスの叔母夫婦たちは合法的に財産を没収された挙句強制退去を命じられ、その子供である従兄弟たちは「母親の不義の子」の申し立てをして1/8ユダヤ人の身分を獲得し、雲隠れした。アディはエディと便宜上の婚約者だったにも関わらず、医学生と付き合って政治に凝り、収容所送りに。軍人の息子デュークは恋人エヴァと結婚し、祖母の家から姿を消した。警察は自殺とみなしたが、エディはうまく逃げたと思っている。
 父親に売られての鑑別所入り、そこで収容所の囚人と強制労働に駆り出される。兵役に志願すれば逃れられるが、そんなことはせず、刑期を勤め上げる。売った父親の意図も真意も分かってる。
 それでもジャズを捨てる気なんてない、思いもよらない。アルスター湖にヨットを出し、湖上でBBCを受信して海賊盤をプレスする。マックスの演奏まで売り出す。マックスの従兄弟たちとも組んでの大収益、それはハンブルグの大空襲まで続いた。
 両親の死亡でベアリング工場を受け継いだエディは、叔父の薫陶を受け、父親のやり方を真似て経営を続けて行く。SSを賄賂で手懐け、捕虜だの何だのの収容者を熟練工にし、自身の頭痛はペルヴィチンで誤魔化す。儲けた金はドル建てにした。ハンブルグが降伏するまで。…           
                                    (出版社紹介文に付け足しました)

 佐藤亜紀さんの小説を読むのは本当に久しぶり。ファンタジーノベル大賞受賞作から数作品は読んでたのですが、「教養溢れる人だけを対象にしています」「さぁ、ついてこられるかしら?」的な内容に、いつしか気力が失せてしまいまして; この作品も、かなり評判がいいのは知ってたのですが、なかなか手が出せませんでした。

 この作家の作品ではよく形容されることですが、海外小説の翻訳を読んでいるみたい。
 とにかく圧倒的なリアリティ、臨場感。ユダヤ人一家が「まだ大丈夫」と思いながらも追い詰められていく様とか(でもこの場合「まだ」も「まさか」もおかしいんだよな、だってあんなことが起こる、起きているなってことは作中人物は知らない訳だから)、ガールフレンドが政治活動という快感にのめり込む表現とか。
 ヒトラーユーゲントを「あの半ズボン…」と馬鹿にする所とかも新鮮でした。みんながみんな、ナチに一丸となってたんじゃないのね、そういう感性を持った人もいたのね~。
 ただ、やっぱり文章的には不親切で分かりにくい。いっそ本当の翻訳ものなら註釈がつくような文言もそのまま流れていく。雰囲気で読めばいいのかもしれませんが、あんまり続くと眉を潜めてしまう。
 もうパロディみたいな感じで、一昔前の作品の翻訳もののように、( )にルビ文字で二列に別れて意味を書き入れてくれたらよかったのにとまで思いましたよ。
 面白い作品であることは間違いないんですがね~。相変わらず、読者選ぶだろうなぁ。