読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

私と踊って 恩田陸著 新潮社 2012年

 短編集。

 心変わり
 同僚の樺島が行方不明になった。その寸前に不審な電話連絡を受けていた城山は、樺島のデスクを訪ねる。通常より低くなっていた椅子、そこからの眺め、目に着いた切り抜き。次々に導かれていくヒントは何を指しているのか。

 骰子の七の目
 月に一度の戦略会議、今日のテーマは「柱時計か腕時計か」。良識ある私たちが良識ある結論に達しようとした時、ふいに邪魔者が口出ししてきた。

 忠告
 ごしゅじんさまを救うため、飼い犬はおくさまの裏切りを手紙で伝えようとする。

 弁明
 舞台の上で、リクルートスーツに身を包んだ少女は弁明を始める。劇団に所属しながら就職活動に勤しんでいた理由、発作が起きた時の様子を語る。

 少女界曼荼羅
 ゆっくりと動いている世界。毎日姿を変えるあちこちに、「彼女」が姿を現すことがある。

 協力
 飼い猫がおくさまに伝えたのは、ごしゅじんの異様な行動。ごしゅじんがおくさまが夜勤で働いている間に、何かを庭に隠しているという手紙。 

 思い違い
 コーヒーショップにて。犬を連れた男、英語で会話する外国人男性と日本人女性、同窓会の通知に驚く女性の二人連れ、外では道路工事。「私」はカウンターに陣取りながら、何となく女性二人の会話内容が気になっていた。

 台北小夜曲(タイペイセレナーデ)
 Yは世界的な名声を得た映画監督だったが、十年前にアメリカで亡くなった。同業者のKは台北の街を彷徨いながら、Yの思い出を振り返る。最後の電話は何を意味していたのだろう。
 
 理由
 昼寝中の私の頭を踏み越えようとした散歩中の猫が、私の左の耳の穴に落ちてしまった。頭の中に響く鳴き声、これを止めるには…。

 火星の運河
 台北はデジャ・ビュの街、台南は甘い街。Yは初めて映画を撮った少女の白昼夢を見る。

 死者の季節
 とりとめのないない連想。死者のための季節、松本サリン事件での被害者、バイクでツーリング中行方不明になった友人、不慮の事故で死んだ旧友。そして大学時代、学祭での占い。

 劇場を出て
 劇場を出て、その余韻の醒めやらぬまま。少女は公園で『桜の園』を演じる。

 二人でお茶を
 ピアノのコンクールの日、僕の中の「彼」が目覚めた。夭折した彼が、僕の身体を借りてまた音楽活動を始めた。それは僕には畏れ多いほど嬉しいことだったが、無茶な身体の酷使は、また新たなリミット
を呼び起こした。

 聖なる氾濫
 洪水の中に浮かんでいるピラミッドの写真から、「私」はその場の状況を見る。

 海の泡より生まれて
 エーゲ海、ケルスス図書館の写真から。その後列車事故で死んでしまった撮影者が思ったことは。

 茜さす
 奈良の古墳群から、無数の声が湧きあがる。

 私と踊って
 パーティで壁の花だった「私」を踊りに誘ってくれた彼女。長じて世界的なダンサーでコリオグラファーになった彼女を、私はいつも見ていた。

 東京の日記
 震災後、戒厳令が敷かれている日本で。規制を強める政府と、それをかいくぐる市民たちの攻防。和菓子や包装紙など可愛らしいものに心惹かれる外国人の目から見た日本。

 交信
 小惑星探査機はやぶさに寄せたショートショート。…


 やっぱり私、恩田さん好きだなぁ。
 一昔前の少女漫画によくあったのですが、短編で一人の半生を描き切るような『二人でお茶を』や『私と踊って』、ふとした会話や残されたメッセージから相手の思惑を読みとる『心変わり』や『思い違い』、対となる『弁明』と『協力』(そう、猫はこうよね・笑)。『少女界曼荼羅』も軽やかで不思議なイラストのよう。エッセイのような独り言のような、自分の覚書のようでもある『死者の季節』も好きだなぁ。
 カバーの下にあるという『交信』は、本屋さんに立ち寄ってこっそり読みました(←おいおい;)。「はやぶさ」ってのはどうも涙腺を刺激していけません。泣くような資格は私にはない、と思って我慢はするんですけどね。あれは、打ち上げからずっと注目していた人、見守っていた人にこそある資格だと思うので。それでもやっぱり、満身創痍で帰って来る姿はくるモノがありますねぇ。…それにしてもこの短編、文庫化の時はどうするんだろう。
 恩田さんは長編の人だと思ってたんですが、今回二冊続けて読んだら、短編の方が私には面白かったっです。恩田さん、作風の幅広いよなぁ。