読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

ヴェネツィアの恋人 高野史緒著 河出書房新社 2013年

 短編集。

 ガスパリーニ
 ヨーロッパのある都市、ヴァイオリンの講習会の帰り。安ホテルに逗留する「私」に、ホテルのオーナーが声をかけて来た。御自慢のヴァイオリンコレクションを見せびらかす老主人。うちの一つの魂柱を直してやった「私」は、とある思いを持つようになる。「このヴァイオリンは私が持つべきものだ」――

 錠前屋
 フランス革命時、ノルマンディの片田舎で。どこからともなく住み着いた太った男は、錠前屋として町に馴染んでいる。精確で質の良い錠前を提供する無口な男、町ではいつからか、彼はとある人物と同一人物なのではないかと噂が流れるようになった。

 スズダリの鐘つき男
 ソビエトのスズダリの精神病棟に赴任した「私」。温かく迎えられた「私」は、患者たちの方が、「私」の望む患者像を演じているのではないかと思い始める。

 空忘の鉢
 セリョツキーは中国の黄華文明の研究者。思いこみの強い性格で、今日も相手にされない発掘の申請をしている。彼に近づいてくる中国系の秘書ザハロワ、偶然出会った元恋人ソーニャ。彼の部屋で、ソーニャは彼が食べる筈だったハミ瓜を食べて苦悶する。どうやら毒が盛られていたらしい。彼は何を狙われているのか。

 ヴェネツィアの恋人
 憧れのオペラ作家アンドレアスが、ヴィオレッタに声をかけてきた。ヴェネツィアでのことを忘れない、と語るアンドレアス。だがヴィオレッタにはまるで記憶がない。彼女は記憶を呼び戻そうと、占い師の店を訪れる。記憶を取り戻す条件は「人生を全て芸術に捧げること」。そして様々なアンドレアスとヴィオレッタの人生が、代わる代わる交錯する。

 白鳥の騎士
 TVの中のワーグナーの戯曲に、ルートヴィヒは魅せられる。彼の望みはワーグナーに会うこと。地下の迷路に、侍従達の眼を盗んでワーグナーを訪ねるルートヴィヒ。同じ頃、歌手で作曲家のカールもワーグナーを探していた。

 ひな菊
 チェロ奏者のニーナはレーピノの『才能ある市民音楽家のためのキャンプ』に参加する。偉大な作曲家ショスタコーヴィチ教授に、自作の小品を見染められたから。その場で久しぶりに出会った遠縁の娘マルガリータはすっかり「女」になっていて、ニーナは戸惑いを感じる。…


 高野さんが江戸川乱歩賞を受賞したから出版された短編集かと思いきや、ぞの前から計画はあったそうで。それにしてもタイミングよかったですね~。以前の作品も次々文庫化されているようですし。
 私的には、『ガスパリーニ』が面白かったかな~。どの作品も現実と異世界が混同して、真実が何か、どこにあるのかわからなくなるような話が多くてですね。表題作『ヴェネツィアの恋人』くらいならそれも楽しめるんですが(「芸術への身の捧げ方」がどんどんショボくなっていった気がするのはどうしてなんだろう;)、『スズダリの鐘つき男』になると、何か読んでて訳がわからなくなってきたり。
 …サイバーパンクは苦手なんだけどなぁ。でも読むんですけどね。