読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

“文学少女”見習いの、卒業。 野村美月著/竹岡美穂イラスト ファミ通文庫 2010年

 “文学少女”見習いシリーズ、最終話。

 “文学少女”見習いの、寂寞。
 日坂菜乃の親友・冬柴瞳が、井上心葉とつきあうと言いはじめた。しかも菜乃への態度が眼に見えて邪険になった。虫が苦手な筈なのにお弁当にイナゴを食べる変化ぶりも、菜乃には訳がわからない。そんな二人の前に、非常勤の司書の先生が現れる。忍成良介、彼は瞳が小・中学生の時の家庭教師だった。そして、あの事件が起きた後、家庭教師を辞めた。瞳の恋人・櫂が自殺するまで。
 櫂は忍成先生の遠縁にあたり、両親が事故で死んで、先生の元へ引き取られた。先生自身も肉親の縁が薄く、高校一年の時に両親を、続いて幼い妹も亡くしていた。瞳を妹のように可愛がっていた、櫂を自分の分身のように大事に想っていた先生。だが櫂の死の原因は自分にあると語り、夏目漱石『こころ』の一節を引用する。――「恋は罪悪です」
 忍成先生の前に櫂が現れる。ナイフで切りつけてくる相手に抵抗すらしない先生。瞳は瞳で、櫂が死んだのは自分の所為だと確信していた。
 あの日、クリスマスイブに、櫂は誰と何の映画を見たかったのか。彼の真実の想いはどこにあったのか。「先生」と「K」と「お嬢さん」、そして「私」。『こころ』の登場人物に自分をなぞらえる三人は、自分達を正しく把握しているのか。瞳を心配する菜乃を、心葉は忍成先生と瞳と共に、視聴覚室へ呼び寄せる。…

 夕歌とのメールに心葉への想いを昇華させるななせの短編『ある日のななせ』
 心葉先輩の卒業をチェーホフ桜の園』に重ねる『サヨナラのための短い物語 “文学少女”見習いの、卒業。』収録。

 今回のモチーフは、夏目漱石『こころ』とチェーホフ桜の園』。どちらも珍しく読んでました、高校生の頃に。
 『こころ』の方は何しろ、「お嬢さん」の母親に、先生が「お嬢さんと結婚させてほしい」と切り出した時のお母さんの台詞が強烈で。確か、「よござんす、さしあげましょう」だったんですよね。何か妙にかっこいいやら「お嬢さんの意思は???」と突っ込みたくなるやら。あれ、お嬢さんの思いをはっきり聞いていたら、こんなにややこしい話にはならなかった筈ですよねぇ。
 今回、何だかボーイズラブ入ってるような展開もありましたね。『こころ』ってそういう風にも読めるものなの??(笑)。勿論“文学少女”シリーズ、奇麗にはまとめあげるんですけど、ボーイズラブってどこまで共通言語なんでしょう?? うちの母親なんか知らない単語だと思うなぁ;
 『桜の園』は最初の一文「喜劇」が強烈でしたね。これが喜劇って、ロシア人の感覚分からん、って(苦笑;)。台本というのは人によっては読み難い物なんですってね、私は有難いことにそんなに読み難いと思ったことはないんですが。
 自分をモデルにした短編を書いて貰って、心葉先輩への想いを昇華した菜乃。何だか私は漫画『ハチミツとクロ-バー』のラストを連想しました。「実らなかった恋に意味なんてあるのかな」「あったんだ、ここに」のあのセリフですね。何しろ、惚れた相手で自分の価値も分かりますもんね。
 さて、次は挿話集の4。後、新シリーズが続きそうですが、大丈夫かな、ちょっと心配(苦笑;)。