読書記録~防忘録~

読書記録です。時々、漫画やアニメにも独り言してます。

まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん著 文藝春秋 2006年

 東京と神奈川との境目にあるまほろ市を舞台にした、とある一年を描いた連作短編集。
 直木賞受賞作品。
 ネタばれあります、すみません;

曾根田のばあちゃん、予言する
 家人の代わりに市民病院へ、ばあちゃんのお見舞いに行く便利屋・多田啓介。
 帰省の間と言う約束でチワワを預かり、バスが間引き運転されていないか一日中見張ったりもする。その帰り夜のバス停で、多田は高校の時の同級生・行天春彦と出会った。新年早々だと言うのに素足にサンダルを履き、飼い主が取りに来ないチワワを「絞め殺してゴミの日にでも出せば」とあっさり提案する行天。行く所がない、と多田の事務所に押しかけ、そのまま居付いてしまう。多田は夜逃げしてしまったチワワの飼い主を探し、その家の娘・佐瀬マリにチワワをどうするか訊く。…:『多田便利軒、繁盛中』

 チワワの新しい飼い主を探す二人。コロンビア人だと名乗る娼婦・ルルが立候補して来るが、シャブ中のチンピラがヒモについていることもあって、多田はどうも気に入らない。…:『行天には、謎がある』

 小学生・田村由良の、進学塾への送り迎えを依頼された二人。くそ生意気なこの少年は、行きのバスの中に「スティックシュガー」を貼り付ける、と言うバイトをしているらしい。ルルにつきまとうチンピラ・シンちゃんを伝に由良の雇い主・星を探し出した多田たちは残りの「砂糖」を片付ける算段をつける。…:『働く車は、満身創痍』

 夏休み、遊びに来たマリとチワワを引き合わせる多田。自分は炎天下バスの運行表を確認していて、行天春彦を探していると言う女・三峯凪子とその子・はるに出会う。凪子に行天との経緯や親子関係を聞く多田。ルルと同居するハイシーに異常に熱を上げるヤマシタに容赦なく暴力をふるった行天は、裏道の証明写真撮影用ボックスの中、ナイフで腹を刺されて発見された。…:『走れ、便利屋』

曾根田のばあちゃん、再び予言する
 一ヵ月半の入院の後、退院が決まった行天は、多田の仕事を邪魔してばかり。そんな二人の元に星が後輩の女子高生の身辺警護を依頼してくる。17歳、新村清海。友人・芦原園子が両親を殺して、その後清海の元を訪れ、彼女の財布を盗って逃走したらしい。取材に一度応じて以来、マスコミに追われる彼女を匿う多田たち。清海の出たワイドショーを見て、行天は清海の真意に気付く。…:『事実は、ひとつ』

 老夫婦に納戸の整理を頼まれた二人。帰り、20代後半の男からその家の様子を教えてくれ、と頼まれる。自分はあの夫婦の実の息子だ、病院で間違えられたのだと語る男の言葉は、多田の古傷を抉った。妻と離婚した経緯を行天にぶちまけた多田は、行天に「出て行け」と言ってしまう。…:『あのバス停で、また会おう』…

 私の母方の祖母のお兄さん、つまり私の大伯父にあたる人は、自分の子供が出来た時に思ったそうです。
 「子を持って知る親の恩とか言うけれど、自分に子供が出来て、自分が親をこんなにも楽しませてやってたのか、と思い知った」。今回、凪子の台詞「愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうことをいうのだと知った」でこの大伯父の言葉を思い出しました。…ちょっと涙ぐんでしまったわ、ちっ(苦笑;)。
 三浦さんの小説は、私の好みからすると、ちょっと粘度が高いというか湿度が高いというか汁気が多いというか…。微妙にあってないな、と言うのが今回で判りました。…ふぅ。
 それにしても、この装丁はどうだろう。表紙のリンゴに突き刺さったラッキーストライクの写真、何か不快なのは私だけでしょうか。こちらを優先するなら中の挿画はいらないと思うし、イラストを優先するなら表紙もそちらにあわせた方がよかったと思うんですが。妙にちぐはぐに感じました。